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マンガの電子化はなぜ遅れているのか。電子化こそ出版業界の最後のチャンス?[コラム]

もう何度目かの電子書籍元年を越えて、しかし未だにデジタル化に本腰を入れない出版業界。それが漫画村問題で顕在化してしまった。

海賊版サイトの方が、正規の電子書籍購入サイトよりも使いやすかったという問題は、本来、出版業界が深刻に受け取らなければならない問題のはず。
遅きに失した感はあるが、それでもやらないよりもましなはずの、これからの電子書籍をまじめに考えたい。

漫画村などの海賊版サイトによる被害を、出版業界は約3,200億円としている。
しかし、2017年の雑誌と漫画単行本の販売実績は約6,600億円。損害額3,200億円は言い過ぎだろう。
これは、漫画村へのアクセス数から算出したものと思われるが、それは商品としての出版物を、業界自らが下に見ているということのように思える。

例えば、Kindleなどが行っている、マンガ本の1巻無料という戦略は、マンガを日常的に購入して読む読者にとって、かなり効果的だ。
とりあえず1巻を読んでみて面白ければ、かなりの確率で続刊を購入する。マンガ読みとはそういう人たちだ。

これは漫画村などを使っていても同じ。漫画村で例えば1巻から5巻までが手に入る作品が、全10巻だったとすれば、残りの5冊は普通にお金を出して購入する。
漫画村的なサイトで手に入るマンガはスキャンが荒かったり、ページが抜けていたりすることも多いらしく、それなら、全巻買い直すという読者も多いはずだ。
減っているとは言え、6,600億円市場を支えているのは、そういうユーザーなのだ。

もちろん、無料だから読むというユーザーも沢山いる。しかし彼らのほとんどは、無料で手に入らなくなれば、読むのを止めるだけだ。
無料だから読むユーザーの多くは有料には手を出さない。マンガを時間潰しの対象としか見ていない読者がほとんどだからだ。

もっとも、かつての漫画や雑誌の市場というのは、時間潰しのために消費するユーザーを主な対象としていた。それは、マンガや雑誌が最も手軽に安価に手に入る時間潰しの手段だったからだ。
しかし、現在、スマホとネットがその役割を担い、市場に残っているのは、好きでわざわざお金を払う読者なのだ。そして、マンガ自体の質も向上して、お金を払って読みたいと思わせる作品で溢れている。

雑誌が集客の機能を果たせなくなった現在、内容で勝負するしかない現状で、6,600億円の市場を維持しているという事実だけでも、驚くべき事だと言っていい。

それを出版社は読み違えている。無料サイトで読めなければ、全員が本を買うと思っているから、3,200億円の損失といった呑気な数字が出てくる。
無料サイトが全部なくなったとしても、マンガの売り上げは今のままでは、それほど上がる事はないだろう。
ただ、その読み違えにも根拠はある。電子書籍版のマンガの売り上げが、紙の本の売り上げ減を越えるほどには伸びていないからだ。

しかし、それは出版社側の電子書籍に対する対応の悪さもあるのだが、そこを踏み出せないのもまた出版業界の複雑なところではある。
まず、未だに多くの書籍は、紙と電子の同時発売ができていない。話題の新刊が、電子でなら、発売日の午前0時から買える、というだけでも、電子版の売り上げは伸びる。

漫画村では、紙のマンガ雑誌を発売日前に入手したユーザーが人気マンガの掲載部分を即アップしたデータが入手できたらしい。
これは、その気になれば出版社が有料で行える戦略だし、例えば雑誌掲載分16ページのマンガが50円で入手できるなら、普通に買うユーザーは多いだろう。
無料の海賊版より安価な正規版の方が、実は多くの人が好きなのだ。気持ち良く読みたいのは誰も同じ、盗品を好んで読みたいわけではない。
問題は、入手の容易さと速さだ。

例えば、マンガにせよ小説にせよ、深夜に不意に読みたくなった時に、電子書籍で購入できれば、これはかなりの確率で買ってしまうものだ。
特にマンガは読みたくなると、本当にすぐに読みたいもので、それがちょっと古いマンガだと本屋に行っても容易には手に入らない。
だからこそ、ネットからダウンロードで購入したいのだけど、昔のマンガが電子化されている確率はかなり低い。

これは文庫本などでもそうだが、10年前には普通に買えた本が、電子化されている例は意外に少ないのだ。
特にマンガと海外小説。マンガの場合、大手出版社以外からも名作が出ているので、電書で入手できる方が珍しかったりする。過去の名作を合法的に読めるようにしてくれている「マンガ図書館Z」のようなサイトもあるが、そこで取り上げられているのもごく一部。
それでもありがたい事には変わりないが、本屋でもネットでも海賊版サイトでも読めない名作が山のようにあるのだ。

ここに出版業界を救うビジネスチャンスがあるように思うのだが、昔の本を一気に電子化しようという事業を興す出版社はない。

さらに言えば、出版社が違う作家の本を、まとめて並べておける本棚アプリのようなものもない。
電子化する際に、図版などをカットする場合もある。マンガなどは、音楽と同じで、定額制読み放題のスタイルの方が向いているのだけど、音楽業界ほどの思いきったコンテンツの提供を行う出版社はない。
つまり、この期に及んでも、まだ出版業界はデジタル化に本気ではないのだ。

高齢化社会に向けて、本がデジタル化されているのは、とても重要なことなのだ。子供の教科書が重過ぎる問題もある。

確実に伸びるはずなのに、製品をどのように売るか、という部分さえ手付かずというかAmazon任せの現状は、漫画村問題どころの話ではないのだ。

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