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スペックを数字で語る時代の終焉を祝福できるか?[コラム]

数字で表されているからといって分かりやすいかというと、商品知識や経験が無いと分からない事も多いのがスペックの表記。
クロック周波数の数値も、今や大きい方が速いとは限らないのだ。キーボードの打鍵感のような数値化できないけれど、ユーザーにとっては重要な要素もある。
筆者はハードディスクの可動音の音質が気になったりもする。

今や、スペックの数値では伝わらない、伝わりにくい部分にこそ、その製品の価値があり、個性が出る時代。その変化にメーカーはついていけるのだろうか。

小さなライブでギターを弾く事になった筆者は、そのために持ち運べるギターアンプを買わなければならなくなった。
それで、色々調べていて、出力20Wのアンプと6Wのアンプで迷ってしまった。機能やコンパクトさ、価格は断然6Wの方が気に入っているのだが、果たして6Wで音は届くのか。

そのあたりをプロのミュージシャンに訊いたところ、その二つなら、断然6Wの方が音が大きいよ、という答えだった。
20Wの方は、ギターアンプというよりもオーディオ機器にギターも差せるというような製品で、遠くに音を届かせるような製品ではないという。出力が20Wと6Wでは、数値は単純に3倍以上だから、筆者は、6Wでは小さいようなら、20Wの方を買おうと思っていたので、この答えには驚いたのだ。ということは、6Wで小さければ20Wの方を買っても意味はないわけだし。

数字で表されるスペックというのは、数値の上下を比べれば良し悪しが分かるようで、実はそうでもないという体験は、実はパソコンでは昔、良く起こっていたのを思い出した。
パソコンの速度はCPUの性能で決まると言われていた時代、CPUのクロック周波数が大きいほど速いと信じられていたというか、初心者は、それくらいしか目安になるものがなく、実際、その判断で大きな間違いはなかったのだ。

ところが、実際に買ってみると、クロック周波数が倍になったからといって、パソコンの動作速度が倍になるわけではなく、もっと言えば、パソコンが速くなったからといって、原稿を書く速度が劇的に速くなるわけもなく、結局は、多少のストレスが軽減されるとか、ソフトウェアの起動が速くなるといった程度だったりしたわけだ。そして、今や、クロック周波数なんて、どのパソコンも十分に大きく、それ以上大きいと排熱や冷却の方が大変で実用上意味がないというところまで来てしまった。

今はもう、Core i5とか、Core i7とか、CPUの世代とか、速度を競うスペックは、そういったところに行ってしまって、しかも、低スペックと言われるCPUでも、日常の業務になんの支障もなくなって、とにかく速度が必要な人以外は、もうCPUの性能すら気にしなくて良くなってしまった。

それはもう、タブレットの世界でもスマホの世界でも同じで、筆者のスマホなんて、既に4年買い替えていないけれど、少なくとも動作速度で困った事はない。5年前のパソコンが、十分にストレス無く動いている。OSも軽くなる方向に進んでいるせいか、むしろ、昔より速度は上がっているくらいだ。
今や、素人レベルで気にするのは、モニタの解像度とメモリ搭載量くらいではないか。そういったスペックよりも、デザインやキーボードの使い勝手、設置面積、重さといった、実際に生活の中で使ってみての相性的な部分の方が重要になってきている。

かつて、雑誌やWebにあれほど掲載されていた「××年新作PCの選び方」といった記事は全く見られなくなったし、スマホも新製品が出るたびに買い替えるものではなくなった。

それは、多分とても良い事なのだ。スペックはローエンドでも不自由しないくらいに向上して、新機種でなければできない事はどんどんなくなっていって、結局はギターアンプと同じように、自分の趣味や用途にいかに合うものを選ぶか、という方向へと進んでいる。

急にパソコンが壊れたから、仕方なく近所の量販店で目に付いた安いノートパソコンを買ったという人が、そのパソコンを数年使い続けられる程度には、市場は成熟して、パソコンも道具として認知される時代になった。
デジカメも、もはや解像度で選ぶものではなくなって、結局、レンズで選ぶという昔ながらのカメラ選びのようになってきた。

つまり、スペックで語ることができるジャンルというのは、未成熟で発展途上のジャンルなのだ。
それこそ、ギターやエフェクターの世界は、もう随分前から、スペックというのは個性を分かりやすく表示するためのものになっている。デジカメもあと一歩でその領域だろう。

パソコンやスマホは、そこに行く過程としての、「スペック比較があまり意味を持たない状況」までは来た。未だに、デジタルとアナログの定義さえあやふやなユーザーも多い中、それでも、ネットに繋いで、調べたり、メールしたり、写真を撮ったり、といった事は、かなりの人が当たり前のように出来るようになった。

問題は、その状況に、サービス提供側がついていけてないということだろう。
ユーザーフレンドリーという言葉が登場して、もう30年くらい経つけれど、サービスの入退会手続きにさえ、未だユーザーにシステムの都合を押し付けているのが現状だ。何故、スマホの普及が一挙にインターネットの利用者を増やしたかという設問は、実は、何故、iモードではネット利用者を増やせなかったのか、という事でもあるのだけれど、相変わらず、そのあたりには目をつぶっているように感じられる。

かつてのAppleが提唱したユーザーフレンドリーの思想なんか、ほとんど継承できていない現在のAppleが、それでも人気企業としてヒット商品を出し続けていられることを、多分、日本企業は恥じなければならないのだ。
そこから始めれば、意外と簡単に、大きなチャンスは巡ってくる。

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