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過去3年間で大きな企業変革を実現した日本マイクロソフト、その歩みを振り返る

現在、日本マイクロソフトの代表取締役社長を務める平野拓也氏が就任したのは2016年度が開始した2015年7月1日。振り返ると既に3年の月日が経つ。
同社は既に当初のWindowsやOfficeというソフトウェア企業というイメージを払拭し、クラウドAI人工知能)企業という色合いが濃い。

本社であるMicrosoftも、前年に当たる2014年2月にSteven Ballmer氏の後任としてSatya Nadella氏がCEOに就任している。
このように直近のMicrosoftと日本マイクロソフトは、トップ交代と共に、その方向性を著しく変えてきた。今回は平野氏が就任した2016年度から現在までの3年間、そして2018年8月6日に開催された2019年度経営方針記者会見を通して、同社の今を切り取る。


平野氏が社長、樋口氏が会長に就任した2016年度

2015年3月2日に突如開催した平野氏の社長就任会見では、「お会いする方に『外見と名前が合わない』とよく言われるが、日米のハーフで北海道出身の道産子」(平野氏)と記者の笑いを誘っていた。
この枕詞(まくらことば)はしばらくの間“持ちネタ”として平野氏も愛用してきたが、最近は口にする場面に出くわすことはない。平野氏が日本マイクロソフトの顔として定着してきたことの現れだろう。

左から日本マイクロソフト 代表執行役 会長 樋口泰行氏(当時)、同社 代表執行役社長 平野拓也氏、Microsoft Internation President ジャンフィリップ・クルトワ氏(当時) 

続く7月2日に開催した新社長就任および新年(2016年)度経営方針記者会見では、重点分野として「プロダクティビティとビジネスプロセス」「インテリジェントクラウド」「Windows 10+デバイス」の3つがあげられた。

1つめの生産性でビジネスプロセスを変化させる取り組みは、現在も続けているが、当時は米国で発表した直後のSurface Hubを品川オフィスに設置して、今後販売するための知見を重ねると方針を掲げていた。インテリジェントクラウドはMicrosoft Azureを指し、パートナー企業数を2015年度の2,500社から3,500社まで拡大すると方針を示した。
そして最後は2015年7月にリリースしたWindows 10を意味するものの、Windows 10 Mobileデバイスについても言及し、「今までお付き合いのなかったデバイス企業からも問い合わせを頂き、顧客からの期待を感じている」(平野氏)と述べていた。
だが、結果は読者諸氏もご承知のとおり、Microsoftの方針に従ってクローズしている。

さらに、「Microsoft BandやMicrosoft HoloLensも早く日本で販売したい」(平野氏)と述べていた。
前者はライフログ系ウェアラブルデバイスだが、製品・サービス自体が終了。ただし、2018年6月には、Microsoft Research CVPのPeter Lee氏がMicrosoft Healthcare担当CVPを兼任することを公式ブログ(https://blogs.microsoft.com/blog/2018/06/26/new-team-assembled-to-unlock-the-innovation-potential-in-healthcare-data/)で発表し、異なるアプローチでヘルスケア業界に対してもチャレンジし続ける姿勢を示している。

日本マイクロソフトの2016年度重点分野


2017年度はデジタルトランスフォーメーション推進元年

翌年2016年7月5日に開催した新年(2017年)度経営方針記者会見では、ワークスタイル変革・セキュリティ・グローバルオペレーションといった背景を基盤とした「顧客のデジタルトランスフォーメーションの推進」を筆頭に、「クラウド利用率の増加」「データカルチャーの醸成とデータプラットフォーム(SQL Server)の拡大」「法人分野でのWindows 10普及」「最新デバイスによる新たなエクスペリエンスの実現」「クラウド時代のパートナーシップ」と6つを掲げた。

日本マイクロソフトの2017年度重点分野

日本マイクロソフトは、「Windowsプラットフォームも重要だが、過去にとらわれずに社内文化の変革と挑戦をチャレンジ精神で進める」(平野氏)とデジタルトランスフォーメーション(=変革、以下DX)の推進を強調した。
ちょうどDXというキーワードが登場したのは、この頃である。

詳しくは後述するが、社内文化の変革という文脈では2017年度から、成長を目指す思考様式である「グロースマインドセット」の定着を目指していた。
当時話題になり始めていたダイバーシティやインクルージョン(多様性)といったキーワードを並べつつ、「我々は外資企業のため、中途社員の割合が多い。社外文化も取り入れつつ、グロースマインドを実現する」(平野氏)と述べている。

左から日本マイクロソフト 執行役員 政策渉外・法務本部長 スサンナ・マケラ氏、同執行役員 Dynamics ビジネス統括本部長 岩下充志氏、同執行役員 エンタープライズサービス ゼネラルマネージャー ヘニー・ローブシャー氏、同常務役員 常務 ゼネラルビジネス担当 高橋明宏氏、同常務役員 常務 パブリックセクター担当 織田浩義氏、同代表取締役 社長 平野拓也氏、マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役 社長 安達理氏、日本マイクロソフト 執行役員 常務 マーケティング&オペレーションズ担当 マリアナ・カストロ氏、同常務役員 常務 コンシューマー&パートナーグループ担当 高橋美波氏、同執行役員 デベロッパー エバンジェリズム統括本部長 伊藤かつら氏、同執行役員 最高技術責任者 榊原彰氏(退社した役員を含む。役職はすべて当時)

また、2016年は日本法人が設立した1986年2月17日から数えて30周年だった。
別の場面で樋口氏に大々的なイベントを開催しないのかと訪ねたところ、米国本社は「30」という数字に区切りを感じていないため、内々に収めると述べていた。

記者会見後のパーティでは、創業30周年を祝う飾り押し寿司も登場した


ビジネス戦略の変革を始めた2018年度

2017年8月1日に開催した新年(2018年)度経営方針記者会見では、日本政府も掲げる働き方改革やインダストリーイノベーション、デバイスモダナイゼーションに注力することを表明。この頃からクラウドビジネスの好調さをアピールするようになったのも特徴の一つに数えられる。

2017年度法人向けクラウド事業の売上高は189億ドル。内訳としてMicrosoft Azureは前年度比プラス97%、Office 365はプラス43%、Dynamics 365はプラス74%。2018年度のグローバル目標額が900億ドル(日本は200億ドル)だったことを踏まえ、日本マイクロソフトは、「かなり(目標に)近い売り上げをクラウドビジネスで実現できた」(平野氏)と述べていた。

2018年度からの注力分野して日本マイクロソフトは、「働き方改革」「インダストリーイノベーション」「デバイスモダナイゼーション」の3つと、これらITソリューションを支える基盤となる「セキュリティ」に注力することを示している。
同社は「顧客に提案する前に自社で実施し、社内の働き方改革も進めたい」(平野氏)と述べつつ、Office 365上の操作を分析して、メール応答や会議に費やす時間の見直しを可能にするMyAnalyticsの活用や、Microsoft Azure上で稼働するチャットボットで社内手続きを自動化したことをアピール。
「働き方改革推進会社ネットワークを拡充しつつ、『働き方改革 第2章』を推進する」(平野氏)と次のフェーズに進むことを示した。

日本マイクロソフトの2018年度重点分野

産業別にDXを推進するインダストリーイノベーションは、「金融」「流通」「製造」「政府・自治体」「教育」「ヘルスケア」と6つの業種に注力することを表明し、抜本的な組織体制の見直しを行っている。
2018年度の新設したのは、クラウド&ソリューション事業本部、インサイドセールス事業本部、そしてパートナー事業本部の3つ。
特にパートナー事業本部は当時200人規模のチームとして、「パートナーと共に開発し、パートナーソリューションを共に販売する」(平野氏)と米国本社と同じパートナー戦略を実現することを表明した。

平野氏は3年間を振り返り、社長就任時に掲げた「革新的で安心でき、喜んで使って頂けるクラウドとデバイスを提供する」という目標をある程度実現できたと述べている。

2018年度のパーティでは、Microsoftのミッションを模したカステラが登場


2020年までにクラウドベンダーNo.1を目指す2019年度

そして2018年8月6日には平野体制4年目に突入する新年(2019年)度経営方針記者会見を開催した。
2017年同様、2018年度のグローバルクラウド事業の売上高として、前年比14%増の1,104億ドルと初めて1,000億ドルを突破。日本マイクロソフトは「クラウドネイティブなAWSさんやSalesforceさんの年間成長率よりも我々のコマーシャルクラウド成長率が上回る」(平野氏)と、珍しく他社名を挙げた自社アピールを行った。

2019年度経営方針記者会見に登壇する平野氏

そのうちのコマーシャルクラウド売上高は前年度比56%増の230億ドルだが、内訳としてはMicrosoft Azureが89%増、Office 365が38%増、Dynamics 365が61%増(いずれも2018年度第4四半期の前年同期比)。
これを踏まえて日本マイクロソフトは、「2020年までの目標として、日本No.1のクラウドベンダーを目指す」(平野氏)とクラウドビジネスへ本格的に転換することを示した。

平野氏が日本マイクロソフトに入社したのは2006年度(2005年8月)だが、そこから2016年度までの総成長金額分は2016~2018年度の2分の1。つまりこの3年間で同社は急激な成長を遂げてきた。
その成長要因として同社は、「企業変革の推進」「働き方改革のリーディングカンパニー」「クラウド+インテリジェントクラウドの成長」の3つが大きいという。

背景には「WindowsやOfficeといったライセンスビジネスから、クラウドソリューションがメインストリームへ」(平野氏)変わった自社変革の成功がある。
顧客との接点もIT部門中心からIT部門+顧客の事業部門へと広がりを見せるなどビジネスの手法も変革してきた。
また、企業文化という文脈ではグロースマインドセットも「これまでの成功体験に捕らわれず、新しいことを学び続ける(自己)成長に取り組んできた」(平野氏)と述べつつ、2017年度経営方針記者会見で掲げた目標が、着実に進みつつあると日本マイクロソフトは説明する。

2019年度の日本マイクロソフト、「インダストリーイノベーション」「ワークスタイルイノベーション」「ライフスタイルイノベーション」と3つの変革を掲げ、例年と異なる2020年まで経営方針を明らかにした。
2017年度から掲げた6つの業種別注力分野に加えて、新たに「自動車」「メディア&コミュニケーション」の2つを追加。また、「評価チームの準備やDXを推進するデジタルアドバイザーチームを2倍に増員」(平野氏)し、各業種に特化した業種別営業組織を設置する。
2018年秋頃を目標に政府・自治体向けクラウド利用増進計画の発表も予定しているという。

日本マイクロソフトの2018年度重点分野。2020年までを目標としている

ワークスタイルイノベーションの文脈では、前年度の方針を更に推し進める。
「『働き方改革Next』としてファーストラインワーカーやミレニアル世代、教育分野を対象に、AIを活用して個人・組織の働き方分析による可能性の最大化」(平野氏)を目指す。
また、日本マイクロソフトは2011年に東京都内オフィスを、現在の品川本社に統合したが、「今年(2018年)2月で来館者が100万人を突破した。オペレーションモデルや人事制度の改革など、常に新しい働き方へ取り組むため、2020年までに(社内オフィスの)リノベーションを実施する」(平野氏)。

ライフスタイルイノベーションの文脈では、ミレニアル世代/学生向けに魅力的なデバイスを提供し続けるとアピールする。
既にSurfaceシリーズは10インチからデスクトップ、コラボレーションデバイスのSurface Hubなど多角的な展開を行ってきた。日本マイクロソフトは、「コワーキングスペースなどSurfaceを見かける機会が増えてきた。(2018年8月28日から発売を開始する)Surface Goの先行予約も過去1位2位を争う台数」(平野氏)と、デバイスビジネスも好調であるという。
もちろん、「デバイス(ビジネスは)OEMと協業しながら進めていく」(平野氏)とのフォローも欠かさなかった。

駆け足で日本マイクロソフトの平野体制3年間を振り返ったが、筆者は米国本社CEOに就任したNadella氏の大胆な変革に歩みを合わせ、着実に自身の変革を実現してきた印象を持つ。
平野氏の代表執行役社長就任以前、日本マイクロソフト社内では米国本社の変革に対する戸惑いの声が聞こえていたのも事実である。だが、平野氏が自社文化の1つに掲げる「One Microsoft」は着実に浸透し、その姿を変えてきた。
Appleを除けば新興企業ばかりのGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に引けを取らず、企業変革を実現したMicrosoft/日本マイクロソフトは、今後も注目すべきIT企業に数えられるだろう。

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