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リベラルアーツ教育はなぜいま注目される?日本型・欧米型の違いとは?

国際社会で活躍するグローバル人材の育成が最重要課題となっている中で、注目されているのがリベラルアーツ教育だ。
各大学では、リベラルアーツの学部が続々と新設されている。リベラルアーツ教育の基本的知識と、真のグローバル人材を育てる際に必要とされる教育、日本と欧米との違いについて解説する。


リベラルアーツ教育の基本的概念

リベラルアーツは社会に貢献できる、豊かで深い教養を身につけた人間を育成するための教育を指す。その起源となったのは、古代ギリシャやローマの「人を自由にする学問」であり、それは「教養教育」とも呼ばれている。

日本の大学でも一人前の社会人として知っておくべき一般教養を学ぶ機会は与えられているが、“良い就職”を目標とする社会傾向に押されて専門教育のわきに追いやられている感が強い。
日本ではこの一般教養をリベラルアーツと同義とみる向きもあるが、本家のリベラルアーツ教育はかなり意味合いが異なる。

リベラルアーツの基本概念は「人を自由にする学問」、つまりリベラルアーツとは自由に生きるための基礎知識を学ぶ教育なのだ。
無知は人を臆病にし、行動する勇気を失わせる。リベラルアーツ教育は単に先人から受け継いだ知恵を身につけるのみにとどまらず、自らが自由に行動できる人間となるための発想力を養う。

教養と思考力を兼ね備え、課題に対する問いと答えを自らの手で導き出そうとする、意欲ある人間を育てる教育といえるのかもしれない。


リベラルアーツ教育には理系がない?

リベラルアーツのスペルは「liberal arts」だ。
artというと絵画や音楽を連想するが、英英辞典では「人間がつくりだしたもの」というような説明がおかれている。つまり、米国の学校では「歴史」や「地理」、「文学」もartに属するのだ。このことから、リベラルアーツ教育はしばしば「文系」と受け止められがちである。
しかし、リベラルアーツは文系にも理系にも偏ることはない。

例えば米国を代表する名門、ハーバード大学は研究系の大学として知られているが、ここでもリベラルアーツ教育はしっかりと行われている。
世界最高峰の理系大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)でもリベラルアーツ教育が盛んだ。将来的に偉大なる科学技術を生み出すためには、学びの土台をしっかりと構築する必要がある。

厳しい訓練で有名な陸軍士官学校や海軍士官学校などが行う教育は、まさにリベラルアーツの王道ともいえるだろう。
難しい局面に陥っても冷静に判断し、行動できる能力や、仲間を説得して統一された意志の下、協力し合うように仕向けるコミュニケーション能力など、リベラルアーツ教育とリーダー教育は重なるところが多い。

日本国内でリベラルアーツ教育がにわかに注目されているのも、人間的に厚いベースを保有する人材が求められているからだと考えられる。
たとえ、どれほどITスキルが高くても、積極的に課題を見出し、解決を探る能力がなければ過去の焼き直しから進歩していきようがない。画期的なアイデアの創出も、常に学び続けようとする姿勢があってこそのものだ。

リベラルアーツ教育はすべての領域に対して、成長の可能性を与える基礎能力を整えるための教育なのだ。


米国における「教養教育」と日本のリベラルアーツ教育

近年、企業が採用に際して「人間力」を重視し始めている影響もあり、日本でもリベラルアーツ教育に特化した学部を有する大学が増えてきている。
主なところでは国際教養大学(AIU)、国際基督教大学(ICU)、立命館アジア太平洋大学(APU)、早稲田大学国際教養学部(SILS)、上智大学国際教養学部 (FLA)などが挙げられるが、このほかにもリベラルアーツ教育を受けられる学部をもつ学校は多数見られるようになった。

人文科学や社会科学、自然科学、芸術など、各分野を横断的に幅広く学べる点や、ディベート、ディスカッションを通じてコミュニケーション能力の向上を目指す点では、米国型のリベラルアーツ教育とさほどの違いはない。

しかし、米国のリベラルアーツ・カレッジの場合には、学生の多くが4年間の教養教育を受けた後、大学院へと進んで専門知識を学び、研究活動を行う。
リベラルアーツ教育はグローバル人材育成への有効策ではあるが、実際に海外の企業で働く場合には個々人の専門性が問われる。ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学でも、思考の方法をリベラルアーツで身に着けた後、大学院で専門分野に集中するという過程をたどる。
自由な発想力と課題解決にのぞむ下地にプラスして、専門知識をもつ最上級の人材が育成されるのだ。

日本のリベラルアーツ教育では、まだそこまでの系統立てた人材育成が確立されていないように思われる。
文系、理系にとらわれない考える力を養うことは重要だが、真にグローバルな人材となるためには、国際的企業から求められる専門性も持ち合わせる必要がある。


グローバル人材育成に有効なリベラルアーツ教育とは

滋養に富んだ土がどのような植物も力強く支える土台となるように、リベラルアーツによって培われた教養はさまざまな方向性へと成長する支えになるのは間違いない。
そこに専門性をどう調和させていくのか、大学側の実施策が大きなカギとなりそうだ。

日本有数の理工系大学である東京工業大学では、2016年にリベラルアーツ研究教育院を設置し、学士から博士課程にいたる9年の間でリベラルアーツ教育を行う。
リベラルアーツ研究教育院長である上田紀行教授によると、“決められたシステムの中で出された問いに対して効率的に最適解が出せる”のが東工大生だという。
しかし、それでは既存の概念を打ち破ることはできない。

新しい概念も最先端の技術も数年たてば古くなる。最適解がいつもあるとは限らない現実社会の中で、求められるのは自身で「解」への道筋を見出せる人材だ。

東工大では大教室講義と少人数制講義を組み合わせた「立志プロジェクト」を軸に、専攻の異なる学生たちが多彩な分野の外部講師から講義を受けたり、ディスカッションを行ったりしている。

リベラルアーツ教育を通じ、それまではあまり露わになることはなかった学生たちの志が表面化してきたという。人文社会学系の書籍の売上が大きく伸びるといった、明らかな変化も見られる。

米国型の伝統的リベラルアーツ教育を、文化土壌の異なる日本に直輸入したからといって、企業が求める人材が育つわけではない。
東工大ではリベラルアーツ教育の理念に基づきながらも、独自の体制を構築することで成果を上げている。今後、若い日本人をいかに世界標準の人材へと育て上げられるかは、各教育機関のリベラルアーツ教育への理解と、それを活かす教育体制への努力にかかっているといえる。


<参考・参照元>
リベラルアーツ教育・リベラルアーツカレッジの最新動向|アメリカ大学進学ガイダンス|現地情報誌ライトハウス
日本人の的外れな「リベラルアーツ論」 | 日本の教育では、「本物の日本人」は生まれない | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
【特集】文系でもない理系でもない新しいリベラルアーツとは|いま注目されるリベラルアーツ教育の新しい波|大学Times
リベラルアーツ教育は東工大生をこんなに変えた | BUSINESS INSIDER JAPAN

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