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デジタルにおける本とは何か〜日本人が「紙の本」を愛している理由[コラム]

本が売れないと言われて、もう随分長い。一方で電子書籍はビジネスになるのか、と言われはじめたのも随分長い。実際のところ、本はそもそも爆発的に売れるような商品ではなく、電子書籍においては一部で十分ビジネスになっているのだが、それが表に出てこない。

そこには日本人の「紙の本」に対する愛着と、信仰めいた感情がある。既に世界が経験した「本」というメディアの大変換を、日本人はこれから初めて経験しようとしている。その過渡期の混乱が、現在なのではないだろうか。


「活字離れ」の嘘


本が売れなくなったのはなぜか?という議論は、多分もう20年くらい続いている。そして、そのなかでずっと言われ続けているのが「若者の活字離れ」である。しかし、この活字離れというネタは、もう50年くらい言われ続けているのだ。50年前の20歳は、現在でいう70歳である。ということは、今の日本人は20代から70代まであまねく活字離れを起こしているということか。それでは確かに本は売れない。

しかし、そんな訳はないのである。出版業界が売り上げのピークを記録したのが1996年なので、今から21年前。既にインターネットは普及し始めており、電子出版も始まっている年に本は売れたのである。しかし、その頃も当然「若者の活字離れ」が言われていた。本が売れないのは図書館のせいだという声や、電子書籍のせいだという話も出てくる。
しかし、そのあたりの話はどうでも良い。図書館で読まれようと、電子書籍で読まれようと、それは「本」が読まれているからだ。今や、紙の本と電子書籍を読書関連のデータで別扱いするのは日本くらいなのだし。そのあたりの電子書籍ビジネスを巡るあれこれは、CNET JAPANの「特集 : 林智彦の『電子書籍ビジネスの真相』」に詳しいので、興味のある方は、こちらに目を通して欲しい。ついでに、出版関係のニュースを追う際には鷹野凌氏による「出版業界気になるニュースまとめ」が読みやすくまとまっている。


電子書籍が抱えるビジネス上のハンデ

問題は日本人がなぜ、こうまで紙の本とデジタルの本を区別するのか、という点だ。分かりやすい所では、流通の問題がある。

紙の本は取次を通して全国の書店に並ぶ。この取次と書店にとっては、紙の本と電子書籍は全然違う。電子書籍は取次も通さず書店にも並ばない、また出版社としても紙の本を出せば取次から現金が支払われるが、電子書籍では売れないとお金が入らないという問題もある。取次からの現金で次の本を作るというビジネスの循環構造は電子書籍では回らないのだ。しかし、電子書籍は印刷代や紙代が掛からない訳で、本を作るのにかかる代金は少ない。とはいえ、実売分しか収入がないのは、やはり小さな出版社などでは現状キツイだろう。その一方で、大手出版社はまず電子書籍で出して様子を見る、というスタイルが定着しつつあるのだ。この場合、キツイのは執筆者である。紙なら印刷された分だけの印税が入るところ、実売分しか収入がないのだから。

ビジネスとしての紙と電子とではこんな風に違いがあって、それは過渡期だからこそ結構深刻な違いではある。ただ、これは時間と経験とシステムが解決して行く問題だろう。


日本人と紙の本の長い蜜月

もっと大きな問題は、日本人が心理的に持っている電子書籍への抵抗というか、「やはり本は紙じゃないと」意識だ。本の歴史を遡ると面白いことが分かる。海外では、本は羊皮紙を綴じたものか、巻物がとても長い歴史を持っている。紙の本の普及は活版印刷が普及してから、つまり15世紀以降のことになる。

ところが日本では、最初から紙の本として普及したのだ。現存する日本最古の本は、聖徳太子が書いたという「法華義琉」だといわれている。これは7世紀初めの頃の本で、既に紙の本なのだ。ちなみに8世紀には、世界最古の印刷物「百万塔陀羅尼」が出版されており、これは活版印刷だった可能性もあるというのだ。さらに、平安時代に書かれた本が1,000冊以上も判読できる状態で残されている。日本人は、どれだけ本が好きなのだという話である。しかも、これらは当然、紙の本なのだ。印刷が普及せず、写本の形で本が流通した理由も「キレイな紙にキレイな筆文字で書かれた本の方が美しいから」なのだそうだ。既に8世紀、今から1,300年前に、テクノロジーによる本は手書きに負けているのだ。

その後も、江戸時代に入って木版による印刷技術が普及した時、活版印刷も入ってきたのだけど木版の方が速くてキレイという理由から、結局活版印刷の普及は明治以降に持ち越された。木版による文字は手書き文字を元に彫るわけで、活字よりも喜ばれたのは8世紀の昔から変わっていない日本人なのだ。

電子書籍で売れているジャンルは、コミックスや雑誌、新書、文庫本とエッチな本で、このあたりは既に十分にビジネスになっている。これらは「本」というモノよりも、内容に意味があると考える人が多いということだ。あと、本屋では買いにくい本。例えばコミックスの場合、本屋で見つけた「25巻」が既に持っているのか、新刊なのか分からなくなってしまうことがあるが、電子書籍なら購入履歴があるから安心といった機能面での便利さもある。

一方でハードカバーや豪華本は、モノとしての「本」を入手したいと考える人がまだ多く、また1,600円で電子書籍、つまり形のないデータを買うことに抵抗がある人も多いらしく、紙の本の方が売れる。日本人の「紙の本」好きは本当に根強いのだ。ということは、もうビジネスの方向は見えているように思うのだが、さて、出版業界は、そしてデジタルの本を扱うメーカーはどう動くのだろうか。


<参考・参照元>
特集 : 林智彦の「電子書籍ビジネスの真相」|CNET Japan
「活字離れ」論の文化史 林 智彦 (2015年5月 春季研究発表会)|日本出版学会
鷹野凌|DOTPLACE

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