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Uber(ウーバー)がドライバーへのチップ提供を開始。その背後にあるアメリカの労働市場の問題

ライドシェアリング最大手のUberが、アメリカの一部の都市でチップ提供機能を開始した。最大のライバルLyftに遅れること5年、Uberはなぜ今になってチップ提供機能を開始したのか。飲食店従業員やドライバーなどのアメリカの労働市場に連綿と続くチップという文化について、Uberのチップ提供機能とともに考察する。


突如始まったUberのチップ提供機能

ライドシェアリング大手のUberは、ユーザーがドライバーにチップを支払える機能を一部の地域で開始し、話題になっている。ミネアポリス、シアトルなどのエリアで始まったチップ機能は、Uberユーザーがドライバーを評価した後にオプションでチップをドライバーへ支払う仕組みだ。当面は限定エリアで提供されるが、やがて全米へ拡大する予定である。

チップは1ドル、2ドル、5ドル、または任意の金額を入力でき、Uberの利用料金に上乗せしてUber登録のクレジットカードから支払われる。ユーザーはサービス利用日から最大30日間チップを支払うことができ、ドライバーのサービスが気に入らない場合はチップを支払う必要はない。

なお、多くのUberドライバーの間では、チップ機能の提供は「遅すぎた」として受け止められているという。


ライバルのLyftは当初からチップ提供機能を搭載

一方、Uberの最大のライバルLyftは、「我々は事業開始の早期からチップ機能をアプリに組み込み、ドライバーにチップを支払ってきた。それは正しいことであり、結果的に我々のドライバーはライドシェアの利用料に加えて、2億5千万ドルものチップを獲得してきた」としている。

Uberがチップ機能の提供を開始した背景には、ニューヨークで展開されていたドライバー達によるチップ機能の原則化を求める運動があったともいわれている。現在、ニューヨーク市内には5万人以上のライドシェアドライバーが存在するとされ、Uberのチップ機能搭載を求めていた。また、直前にはニューヨーク市のタクシー・リムジン委員会が、市内で活動しているライドシェアドライバーへのチップを原則化する条例を通過させていたという。Uberの説明がどうであれチップ機能搭載は、ライドシェアドライバー達の待遇改善を求める声を反映したものであることに間違いないだろう。


チップという習慣の善し悪し

ところで、アメリカを訪れる日本人を困惑させる習慣のひとつがチップだといわれている。チップの習慣がない日本人は、レストランで食事をする際にチップを置くケースが少なく、現地アメリカ人のひんしゅくを買っている。そのため、日本人観光客が多く訪れるレストランなどでは、日本人客に最初からチップをサービス料として上乗せして請求する店もある。

最低時給に近い水準で暮らしている人達にとって、チップは重要な収入なのだ。筆者の知るフランス人のウェイターは、ロサンゼルスにあるフレンチレストランで働いている。愛想が良く、ワインの知識も豊富な彼が受け取るチップの額は給料よりも高いそうだ。

アメリカにおけるチップという習慣が、どのように始まったのかについては諸説ある。なかでも有力なのが、イギリスの古い伝統をポストモダン期のアメリカ人が一般化させたという説だ。具体的に1600年頃のイギリスでは、貴族階級が労働者階級へチップを施すことが一般化していた。その習慣がアメリカへ渡ったイギリス移民により伝わり、時間の経過とともにアメリカに根付いたという。確かに、現在のアメリカのチップは実質的に富の再分配の一種であり、持てる者から持たざる者への施しという性質を十分に残している。


アメリカの労働市場で残り続ける、おひねりの伝統

アメリカにおけるチップにはサービスに対するプレミアムの支払いという意味もある。古い日本の言葉でいう「おひねり」と呼ばれるものに近い。飲食店やライドシェアドライバーなどの労働者、個人個人のパーソナリティやサービスそのものに対する消費者の評価を表す具体的な数値でもある。素晴らしいサービスを提供してくれたことへの感謝として、チップをはずむという行為はアメリカの労働市場に残り続けるアメリカ式おひねりの文化なのだ。筆者の予想では、このアメリカ式おひねりの文化が今後なくなることはないだろう。

今回のUberのチップ機能の提供開始は、そのアメリカ式おひねりの文化の必然的具現化というべき現象だろう。昨今のアメリカでは、最低賃金の引き上げが各地で議論されている。筆者の考えでは、このアメリカ式おひねりの文化を守り、賃金が安い労働市場で有効に活用してゆく方がアメリカらしいと思う。当初のUberはチップ不要を謳い文句していたが、チップ機能の搭載でよりアメリカの企業らしくなったのではないだろうか。

ライドシェアリングという新たなビジネスモデルを築き上げたUberだが、チップというアメリカの古くから続く伝統を取り込むことで、今後さらに成長してゆくと考えている。


<参考・参照元>※リンク先英文記事
Riders can now tip Uber drivers in D.C. and nationwide|The Washington Post

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