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ニュートリゲノミクスによる健康増進に注目!データ解析で腸内環境や食品の健康への影響が明らかに

健康状態は、遺伝子的な構造(遺伝子型)と食生活や運動など生活環境の相互作用によって決まる。
この考え方にもとづき、遺伝的な要因と食生活を対象とする研究領域である「ニュートリゲノミクス」と呼ばれる分野が近年大いに注目を集めている。
今回、北海道大学で行われた学会「第6回生命医薬情報学連合大会(IIBMP 2017)」に参加し、ニュートリゲノミクスの近年の進歩に関する講演を聞いた。
講演では全く異なる分野からそれぞれ第一人者が登壇し、それぞれの研究がどう組み合わさって我々の健康増進に役立つのかの発表を行った。その各講演者の話を追ってレポートしていこう。


データベースにより新時代を迎えた腸内常在菌研究

1人目の講演者は理化学研究所の辨野義己(べんの よしみ)研究員。辨野氏の現在の研究テーマは腸内環境である。
「我々の腸内には1000種類以上の菌が常在しており、それらは重さにすると1~1.5kgになります。」
そう辨野氏は語る。

腸内菌については大腸菌やビフィズス菌などその存在は周知されているが、ここまで多くの種類が腸内に存在しており、またその重量が1kgを超えるということはあまり知られていないだろう。
腸内常在菌について、最新の研究では主に以下の2点がよく取り上げられる。

1つ目は「各個人によって腸内常在菌の種類や構成比率が異なり、またそれは生活習慣や食事によって変化する」という点。
2つ目は「腸内常在菌の種類や構成比率が脳の発達、人のとる行動、疾患などと密接に関連している」という点である。
この2点を踏まえると「腸内菌について詳しく調べることで、健康の増進に活用することができる」ということが分かるだろう。

辨野氏が現在手がけているプロジェクトは個々人の「腸内常在菌」と「生活習慣や疾患」などのデータを収集し、大規模なデータベースを作成し分析することで、疾患予防などに活かし、国民の健康維持・増進や医療保険の削減に繋げようというものである。
データベースはすでに作成されており、現在約3,000人分の腸内常在菌に関するデータと、各個人の性別や年齢、食習慣などのデータが整理されている。また分析の結果、腸内環境を8種類のタイプに分類することに成功しており、各個人の腸内環境がどのタイプに属するか、そのタイプだとどのような疾患にかかりやすいか、などといったことが明らかにされている。さらに生活習慣を見直すことで、腸内環境が別のタイプへと変化し改善した、という報告例も上がっている。

このように、腸内環境を解析することで、生活習慣と健康の関係を明らかにすることが可能となっている。
では、このような知見を得るためにどのような解析手法が用いられているのか、次の講演者の話に移りたい。


データ解析によって食品の健康への影響が明らかに

2人目の講演者は北海道情報大学の甫喜本司准教授。甫喜本氏は数理統計学・データ解析を専門としている。今回は食生活と疾患の関係性をどのように評価するのか、その方法についての講演を行った。

今回はあるヨーグルトを摂取することがインフルエンザワクチンの効果に影響を与えるか、という研究を例として紹介していた。
実験はインフルエンザワクチンを投与された被験者を、ヨーグルトを摂取したグループと何も摂取していないグループに分け、その後4か月に渡り各被験者の血液を調査、そのデータを用いて統計解析を行い、ワクチンの効果がどのように変化するのか予測する、というものである。

データ解析をする際には専門分野で「隠れマルコフモデル」と呼ばれている確率モデルを用いている。
これを用いること、被験者がヨーグルトを摂取することで「ワクチンの効果なし」、「ワクチンの効果あり」、「ワクチンの効果が非常に強くあり」の3つの「状態」のいずれかに当てはまる確率が算出され、そこから被験者の年齢や疾患状態などの影響を分析ことが可能となる。

さらに、この解析手順を踏まえることで得られた結果から、最終的に「食品が健康に与える影響」を予測することができるようになるのだ。
予測をする際にこのような複雑な手順を踏む必要はないように思うかもしれない。たしかに単純にヨーグルトの摂取の有無から効果を予測するモデルを作ることも可能だ。
しかし、今回のように被験者の「状態」について解析を行い、その情報を導入する方が、予測の精度が大幅に上昇するのである。食品と健康の関係性という不確実なものを解析する際に、予測の精度が上昇するということは非常に重要となる。

このように、現代の統計解析の技術を用いれば、食生活と健康状態の関係性について、より正しく評価・予測を行うことが可能なのだ。
最後に、ここまで挙げた研究の成果が我々の生活にどのような形でフィードバックされようとしているのか、その具体例を3人目の講演者が紹介してくれた。


健康状態と食生活のデータを解析しAIがコメント

最後の講演者は北海道情報大学の西平順教授。西平氏は北海道江別市における医療と食生活の融合に関する取り組みに携わっており、ニュートリゲノミクス研究の成果をどのように我々の生活にフィードバックできるかについて講演を行った。

2017年9月現在、西平氏は北海道江別市のボランティア約7,000人の協力を得て、市民と大学機関、医療機関をつなぐネットワークを構築し、医療と食の関係性について、特に北海道の食材を用いて本当に健康増進効果があるのかの臨床試験を行っている。

具体的にはボランティアの体組織データ、血液データ、食物摂取頻度調査(どういうものをどの程度摂取したか)などのデータを整理し解析することで、健康状態と生活習慣、食生活との関係性を明らかにし、健康増進に役立てようというプロジェクトである。
これらの解析から得られた結果を、ボランティアに対して「医師からのコメント」や「食事のポイント」などのコメントというかたちで配布を行っている。

興味深いことに、これらのコメントはAI技術を用いて自動で作成されている。これまでは医師や管理栄養士が行っていた仕事を、データから自動作成し配布するこのAI技術を用いたシステムは、新しい時代の健康管理のかたちを表しているように思われる。

今後は生活習慣や疾患などのデータに加え、個人の遺伝子情報もデータに組み込むことで、より適切な食の改善の提案などをすることを可能とするために、さらなる研究が進められている。
1人目の講演で挙げられていた腸内環境に関するデータベースの構築・整理もすでに予定され、江別市のボランティアの協力のもと、機能性食品が腸内環境に与える効果を見るプロジェクトが現在進行中である。


ニュートリゲノミクスが健康をもたらす

ニュートリゲノミクスとは栄養学に遺伝情報を取り入れた新しい研究分野であるが、今回は分野の異なる3名の講演を通じ、研究機関、医療機関、そして市民が結びつくことで新しい健康マネジメントのスタイルが実現される流れを垣間見ることができた。

そもそも腸内常在菌の研究や臨床試験データによる統計解析などは、我々の日常生活においては縁遠い分野かもしれない。しかしその研究の成果や解析結果は、まるで遺伝子構造の分子モデルのように繋がり紡がれ連鎖を繰り返し、今後、医療や食生活などの私たちの健康にフィードバックされていくだろう。



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