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ソリューション

2019年よりデジタル教科書が併用可能に。先行事例から授業はどう変わるのかを考える

ベネッセ、日本マイクロソフトなどが参画する、DiTTデジタル教科書教材協議会では、2012年からデジタル教科書導入について政策提言を行ってきた。
その取り組みが、ようやく実を結び、文部科学省では、2020年のデジタル教科書の本格導入に向けてようやく一歩を踏み出した。


2019年4月より併用が認められるデジタル教科書

デジタルネイティブの子供たちを教えるのに、なぜ教科書が紙のままなのだろうか。

それは教育基本法上、また著作権法上、教科書は「教科用図書」である必要があるからだ。
しかし、新学習指導要領が求める「深い学び」には、教育現場でのICTの活用が不可欠となる。そのため文部科学省では、早くて2019年4月からデジタル教科書の併用を認める見通しを示した。
デジタル教科書の併用が認められたとしても、導入は各学校や教育委員会の判断となり、デジタル教科書を使用するための端末やコンテンツ作成の費用の負担については宙に浮いたままだ。
課題がありつつも、すでにデジタル教科書を導入して一定の成果をあげている自治体も存在する。次章からはその事例を紹介しよう。


学校の統廃合に歯止めをかけるために導入、熊本県高森町

南阿蘇でも特に奥座敷と呼ばれる自然豊かな環境にある熊本県・高森町は、人口約7,000人の小さな町だ。
少子高齢化による過疎化が進むのは、この町も例外ではなく、すでに何回か小・中学校の統廃合を繰り返している。それでも生徒数の減少数は歯止めがかからず、一度は中心市街の学校との合併も検討した。しかし、これ以上学校が住んでいる地域から離れてしまうと、生徒の通学にも時間がかかり、負担が重くなってしまう。

そこで町では、現在の小学校・中学校を存続させることを決断した。
その方策として2012年に導入したのが小中一貫教育だ。児童数39人の高森東学園では、小中学校9年間を4年(Sブロック)・3年(Mブロック)・2年(Lブロック)に分けた。Sブロックは担任が全ての教科を教えるが、M・Lブロックは教科担任制となる。小学校・中学校の枠を超えて教員を配置することで、教科の負担を少なくして、教育の質を高めることができる。

町には、独自の授業モデル「たかもり学習」がある。学習活動のねらいを明確化し、教師の授業改善と、生徒の課題解決型の学習を定着させるための指針となっている。
この授業モデルを支えるのがICTだ。高森町では、町内の小中学校全4校に電子黒板やデジタル教科書を導入している。

例えば、ある日の授業では、小説「走れメロス」を題材にして「『走れメロス』の魅力を伝えよう」という学習課題に取り組んだ。
生徒たちは、小説の一節をデジタル教科書からカットアンドペーストして、独自の見解を加えていく。最後に出来上がったものを電子黒板に表示して発表する。

町の取り組みで注目すべきは、ICTの活用法について日々工夫を重ねていることだ。
定期的に小中学校の全教員が集まり、定期的な研修を行っているほか、教員同士の授業研究会を頻繁に開催している。公開授業の後に研究会を開催し、内容について指摘を受ける。
この研究会は生徒も参加し、理解できたかどうかを正直に話す。この積み重ねによって教師の指導力が飛躍的に向上したという。

こうした取り組みの結果、学力・学習状況調査結果が全国平均を上回り、特に算数・数学Bの得点が伸び、成果を上げることができた。


東洋大学と実証研究を開始した佐賀県武雄市

弘法大師が開山した高野寺がある佐賀県武雄市は、東洋大学と共同でデジタル教科書の効果を測定する実証実験を開始した。
小学4年生、中学1年生の生徒約1,000人が国語・算数(数学)の授業で使用し、成績への影響を検証する。

市は、以前から教育現場へのICT導入に積極的に取り組んできた。すでにデジタルデバイスは、まだiPadが黎明期の2010年に全国に先駆けて導入している。最初のうちはトラブルの続出で、授業が頻繁に中断するなど問題が噴出したが、習熟度に応じた問題に取り組めることで、生徒の意欲が増すことに効果を感じていた。
そこで、さらに活用できないかを検討した結果、家庭学習が少ないという課題に着目し、当時注目されていた「反転授業」に活用することになった。

反転授業は、家庭学習で基礎的な知識を身に着け、授業で応用問題に取り組む手法で、武雄市では独自の「スマイル学習」を展開している。
スマイル学習では、生徒は自宅学習で動画を見て予習し、授業で予習内容を確認する。
その後、グループ授業で学び合いを行い、その後一斉授業で振り返りをするという流れだ。この取り組みで予習をしてこなかった生徒は極めて少ないという。
導入時、予習となるような動画のコンテンツは圧倒的に不足していた。そこで、学校では教師でグループを作り、民間企業の協力を得て動画を作成した。
これまでの教師の負担はいかばかりかと思うが、今回のデジタル教科書の導入によって、教師の負担が軽くなり、授業に集中できるようになるだろう。

市ではすでに、2015年には市内全小中学校の児童・生徒全員へタブレットPC導入を完了しており、環境は整っている。
すでにスマイル学習は理解度テストで従来型の授業の平均点を上回るなど効果が出ており、今回の実証実験でよい結果となれば、デジタル教科書の事例が横展開できるだろう。


デジタルならではのコンテンツ力がカギ

デジタル教科書では、紙の教科書がデータになっているだけでなく、生徒の習熟度に合わせた学習ができるようなコンテンツが必要となるだろう。
良いコンテンツが作られれば、生徒の理解力は飛躍的に向上する。知識がデジタルデータとなることで、子どもたちがそのデータを使って、大人が想像もできないようなことを成し遂げるかもしれない。

問題はICTの整備とコンテンツの質・量だろう。紹介した事例はICTの先進的な取り組みで知られる自治体だが、平成30年2月の文部科学省の調査によれば、デジタル教科書の整備状況は、小学校が52.1%、中学校が58.2%、高等学校が12.5%となっており、地域格差は否めない。

また、現時点ではコンテンツの量・質ともに不足している。紙の教科書をデジタルデータにしただけでは、教育効果も限定的となる。
質を保ちつつ、コンテンツを量産していくためには、エコシステムを形成していくことも必要になるのではないか。2020年が教育飛躍の年となることを期待したい。


<参考・参照元>
とうほく彩発見:熊本県高森町の小規模校対策=高橋興さん /青森 - 毎日新聞
第37回教育委員会対象セミナー・福岡 事後研修に生徒も参加 生徒と共に授業づくり 熊本県高森町立高森中学校 古庄泰則校長|教育マルチメディア/教育委員会対象セミナー
学習者用デジタル教科書の活用 - 高森町立高森中学校
武雄市ICTを活用した教育パンフレット

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