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超短焦点プロジェクターはなぜ売れたか。変わる画面と人の距離感[コラム]

もはや、大きな画面は必要な時に少しだけしか必要としない時代になった。ほとんどの映像は手元のスマホ画面で十分過ぎるほどの画質が得られるのだから。

それでも、テレビ受像機の呪縛に縛られざるを得なかったユーザーを解放するアイテムとして登場したのがSonyの「LSPX-P1」に代表される、小型短焦点のプロジェクター。そのヒットが内包する、「画面」と「人」との距離の変化に、テレビはどこまで自覚的なのだろうか。

Sonyの超短焦点プロジェクター「LSPX-P1」が、一時は入手困難になるほど売れたという。小型のプロジェクターは、トップ・ワンの「モバイルプロジェクター epico」やSKテレコムの「Smart Beam Laser」といった人気商品もあったし、短焦点プロジェクターもRICOHの「PJ WX4152」など、注目の製品がラインアップされていた。

それでも、どこかマニアックな印象があるし、実際に買って、何に使うのかという点もあって、爆発的なヒットには至らなかった。手のひらに乗るコンパクトなプロジェクターは、大ヒットする可能性を秘めていたと思うが、スマホの高画質化、タブレットの登場に押されるように市場を縮小していった。

そもそも、プロジェクターは、ディスプレイモニターの無いところに画面を大きなサイズで投影できる、というのが製品のメリットであり、使われ方だった。ところが、今やスマホやタブレットの形で誰もがディスプレイを手にしている時代には、大きな会場でのプレゼンやイメージ投影といった、どちらかというとイベント関連のためのツールとして以外には使い道が狭くなってしまったのだ。

かつて、カフェの壁面に画面を表示しながら打ち合わせをして、その便利さにコンパクトなプロジェクターを買おうと思ったこともあったのだが(価格も5万円を切っていて手頃だったのだ)、迷っているうちにタブレットが登場し、テーブルに置いたタブレットの画面を見ながらの打ち合わせへと自然に移行してしまったのは、プロジェクターによる投影が、意外に制約が多く、面倒くさかったからだ。

また、小型のプロジェクターのバッテリーの小ささ(またはACアダプタの大きさ)や、光量の少なさが、あまり実用的ではなかったということもあった。

いつの間にか、誰もがディスプレイを、しかも高精細ディスプレイをポケットに入れている時代は、その意味ではプロジェクターが夢見た未来でもあるのだ。しかし、その一方で、決められた場所でしか見る事ができないテレビ受像機は、それがいかに高画質になろうと、見るのが少し面倒くさいものになってきた。テレビの前で座って画面を見続けるくらいなら、映画に行く方が画面に集中しやすいし、画面も画質も遥かに高品質なのだ。

さらに、録画についても、もはや誰のためか分かりにくくなってしまった著作権保護のためのコピーガード機能は、少数の著作権法違反者のために大多数の一般ユーザーに不便を強いるというスタイルを変えない。それどころか、4K放送に関しては、B-CASをやめずに、内蔵チップ型にするという。
放送局サイドの都合で付けられるチップのコストをユーザーが負担する理不尽さ以上に、チップの不良は本体修理になってしまうという面倒さは、テレビ離れを加速するだろう。
テレビ番組は後でネット配信で見る方が、現在、あらゆる面で楽だし、負担も少ないし、画面を持ち歩いているというライフスタイルにもマッチしているのだから。

そういう状況の中で、コンパクトで無線で使える短焦点プロジェクターが登場したのだから、それは売れる。ある意味、それは理想の家庭用テレビのようなものなのだ。もちろん、プロジェクターにはチューナーが付いていないから、テレビ受像機ではない。小さいからサブテレビとして、といった考えで購入する人は、まだ少ないと思う。しかし、今、見たい映像コンテンツはテレビ放送なのか、という問題がある。

「うちの子達は、一日中、YouTubeとニコ動を見てる」という小学生家庭の親の話を本当によく聞く。子供が見なくなったら、テレビは相当にピンチだろう。ここでは、テレビ界の今後を考察するつもりはないが、普段見ているスマホの画面を、必要に応じて大きくして見る事が出来るというのは、テレビチューナーが付いていないというデメリットを補って余りある、という事が言いたいのだ。

しかも、ケーブルを接続しなくても良いのだ。この「無線」というのも、これからの生活の中で、かなりのウェイトを占める重要なキーワードになる。スマホにしてもタブレットにしても、パソコンでさえ、無線で使える、何か色々繋ぐ必要がない、という利用方法が当たり前になっている上に、イヤフォンも無線だし、充電だってそろそろ無線が一般化しつつある。
かつて、音楽を聴く、ビデオを見るといった行為にセットのようにくっついていたケーブルを繋ぐという行為も、完全に過去のものになりつつある。パソコン周りだって、電源ケーブル以外は随分スッキリしたものだ。
そろそろ、無線である事が重要ではなく、優先である事が有害という時代になりそうな勢いである。

そう考えると、「LSPX-P1」が、いかに時代のニーズにピッタリの製品かが分かるだろう。ネックは10万円近いその価格くらい。コンシューマ向けのプロジェクターという、市場があるのだか無いのだか分からなかった、しかも一度は消滅しかけた場所で、ヒット商品を作る事が出来る、という実例は、モノづくりの希望のようなものだ。

万年筆分野では、パイロットの「カスタムURUSHI」が、ファイルの分野ではキングジムの「コンパック」が、デジタルカメラの分野ではオリンパスの「Tough TG-5」が、丁寧に一つ一つ、ユーザーの不便を取り除くような製品開発で名作を作りヒットに繋げている。

欅坂46の「月曜日の朝、スカートを切られた」の中にある、「これから先もずっと電車は満員で」という歌詞が絶望的なのは、ずっと乗客に不便を我慢させ続けていることに会社も役所も無自覚だから。
今、ビジネスで重要なのは、ユーザーが気がつかないうちに我慢を強いられている不便を取り除く製品やサービスの開発なのだ。


<参考・参照元>
LSPX-P1 | ビデオプロジェクター | ソニー
月曜日の朝、スカートを切られたの歌詞 | 欅坂46 | ORICON NEWS

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