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ARメガネはなぜ登場しないのか。最新のメガネに見るウェアラブルツールと未来[コラム]

三井化学が発表したワンタッチで遠近を切り替えられるメガネ「Touch Focus」の、遠近両用を実現するアイディアは、そのインターフェイスも、レンズのシステムも、まるでSF映画のような未来を感じさせてくれる。様々なフィクションでメガネやゴーグルはディスプレイとして重要な役割で登場しているが、「Touch Focus」は、その未来に繋がる初めてのメガネといえるだろう。

それでは、何故、肝心の、ARディスプレイとしてのメガネが登場しないのだろう。

「iOFT2017 国際メガネ展」で三井化学が発表した、ワンタッチで遠近を切り替えられるメガネ「Touch Focus」は、メガネ展のブースでも大きな反響を呼んでいた。

レンズの間に液晶レンズを挟み込み、電源が入ると液晶レンズがオンになり、その部分に+1.75の度が付け加えられるという仕掛けは、世界シェア45%という三井化学のメガネレンズ材料技術と、先進の液晶レンズ、さらには、フレームに仕込めるほどに小型化された集積回路と、耳に掛ける部分の先端にある小さなバッテリーで、連続使用10時間が可能になる省電力技術などの技術の集積があってこそ。

実際に試してみても、ツルに仕込まれたタッチスイッチを触れるだけで、近眼鏡の中央下部が読書鏡へと切り替わる快適さは、従来の遠近両用メガネにはなかった。
もちろん、レンズの一部を別の度数を持った状態にするため、遠近両用メガネのような、度数の変化を吸収するグラデーション部分はなく、電源を入れたまま顔を動かすと、度の境界の段差によってモノが二重に見えたりする。
しかし、小さな文字を見る時だけスイッチを入れるようにすれば問題はないし、十分実用に耐える出来だったと思う。

今回のメガネ展で発表されたもう一つのIT関連の製品に、前澤金型×国立情報学研究所による「プライバシーバイザー 2ndモデル」がある。
こちらは、スマホなどの顔認証によって、勝手に個人識別されないためのサングラスだ。2016年のメガネ展で展示されていた初代モデルは、あからさまに「何かある」デザインで、一般の人が使うと、それだけで怪しいと思われてしまうようなものだった。それが1年で、一般的にも使えるモデルへと成長を遂げていたのは注目に値するだろう。

映画「ベイビー・ドライバー」にも、防犯カメラの顔認証を避けるためのバイザーが登場するが、それも怪しいデザインだったことを思うと、この「プライバシーバイザー 2ndモデル」は、最先端のセキュリティメガネだといえるだろう。

この二つのメガネを見て思うのは、それがどちらも、基本的には既にある技術を組み合わせ、リファインすることで、実生活で役に立つ「製品」として完成させていること。そして、どちらも、今ある何かを、より便利な何かに進化させる方向での製品作りが行われている。
だから、その製品はとても未来的だし、製品そのものに、さらなる未来への可能性が含まれている。

一方で、数年前のメガネ展で花盛りだった、ARメガネの類いは、現在、まだ一つも製品化されていない。
メガネは、ARが脚光を浴び始めた当初から、ウェアラブルガジェットのディスプレイとして期待されているし、いわゆる未来世界を描く映画などでは、当たり前のように、メガネがディスプレイとなって様々な情報を映しだしているのだけれど、その未来が実現する様子は一向に見えてこない。
今回、液晶レンズによって度数を切り替える技術が製品化されたわけで、レンズと液晶を組み合わせる技術は、一つのハードルを超えたのは確かだ。しかし、現在、ホロレンズにせよ、網膜投影型にせよ、液晶とレンズを組み合わせる技術とは違うところで開発が進んでいるようだ。
メガネスーパーが早くから提唱している、メガネに映像を投影するタイプの製品も、今回はまだ試用できるモノはなかった。

ARのディスプレイとしてのメガネが中々出てこないのは、多分、AR製品が、システムからディスプレイまでオールインワンとして開発が進められているからではないかと思うのだ。
ARはメガネのように見えれば良いと云うものではなく、コンテンツと配信システムと、データベースといったネットサービス全体を包括するサービスになるため、ディスプレイ部分は、利権的にもとても末端の技術になってしまう。

これは、ネットサービス全般に言えることだが、どうしてもシステム構築に予算が必要になるし、端末はシステムの仕様に左右されるため開発は後手に回ることになる。
それは電子書籍も、ARも、VRも、スマートウォッチやIoT製品も同じだ。筆者はかつて、電子書籍サービスを立ち上げたいというメーカーから「システム構築にお金がかかったので、コンテンツを無料で提供してもらえませんか?」というオファーを受けてビックリしたが、似たようなことは、今も、あちこちで行われている。

そんな状況の中、プラットフォームに依存しない未来のウェアラブルツールは、着々と準備されているのだから面白い。それは、今ある技術と、今ある不便を見据えて作る製品こそが、正しい未来に向かうという証拠のように感じられるのだ。


<参考・参照元>
三井化学、ワンタッチで遠近を瞬時に切り替えられる次世代アイウェア「TouchFocus」を公開 :日本経済新聞

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