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有名アメフト選手も支援!STEM教育×スポーツの新たな試み

STEM教育というと、いわゆる理系のエリートを育成するイメージがあるが、本質的な目的は、科学技術の思考をさまざまな分野に活かすことである。
そのため、理系の枠にとどまらず、デザイン、音楽などと融合する取り組みが広がっている。そのひとつとして注目されているのがスポーツだ。


STEM教育にスポーツが加わる理由

科学・技術・工学・数学の教育分野を指すSTEM教育という言葉は、2006年アメリカのブッシュ大統領が“STEM教育強化10の指針”を表明したことから生まれた。

STEM教育を重要な国家戦略としているのは現トランプ政権まで受け継がれているが、その背景には、変化する時代と教育が乖離しているのではないかという懸念がある。

シンガポールもSTEM教育を重視していることで知られている。2023年までには、全ての小中学校にロボット工学、プログラミング、3Dプリンティングなどの最先端のSTEM教育プログラムを拡大するといわれている。

STEM教育の特徴は、「横断的」ということだ。単なる科目別の理系教育ではなく、STEM的な思考を社会のさまざまなことに活かしていくことを狙いとする。

STEM教育に加えて、グラフィックデザイナー・計算機科学者のジョン・前田氏は、Aを加えた「STEAM教育」を提唱した。このAは「Art」で、芸術・デザインをSTEM教育に統合する。このAを「リベラル・アーツ(基礎的な教養と論理的思考⼒の習得に重点を置く教育)」に拡大する解釈もある。

スポーツも、この延長線上に含まれるものだ。STEM教育にスポーツがどのように活かされているのか、その取り組みを紹介しよう。


学習コンテンツに選手が参加、NFLのサンフランシスコ49ers

STEM教育の発祥の地・アメリカにおいても、体系立てたSTEM教育を行う学校は少なく、指導できる教員も不足しているという現状がある。

2011年にマイクロソフトが行った大学生と保護者に対する聞き取り調査によると、STEM関連の職業に就かせるためには、K-12(幼稚園から高3まで)のSTEM教育が欠かせないと考える学生は87%、保護者は93%いるが、現行の教育がSTEM教育に適している環境だと考える人は半数に満たないという結果が出ている。

そこでアメリカでは、アメリカンフットボールや野球といった子どもたちが憧れるプロチームでSTEM教育を行い、幼少期から科学技術への興味を持ってもらう取り組みが盛んだ。
例えばシリコンバレーに本拠地を持つ、NFLのサンフランシスコ49ers(フォーティーナイナーズ)では、無料オンライン学習プラットフォームを運営するカーンアカデミーと提携し、オンラインコンテンツを制作している。

このオンラインコンテンツの冒頭では、49ersのジョー・ステイリー選手が、なぜボールを投げる時にスパイラル回転をかけるとよいのか、コマの回転を例えにしてわかりやすく説明している。

引用元:49ers Ask Sal: Why is it good to throw a spiral? - You Tube

また、チームで運営する財団は、幼稚園から中学3年生までを対象として、本拠地のリーバイススタジアムの博物館に教室を作り、専門のインストラクターによるアメリカンフットボールに関連したSTEM教育を行っている。

カリキュラムは、アメリカンフットボールの子どもたちの学年や教師の教育内容に合わせて教育スタッフがカスタマイズする。授業に参加するのは無料で、スタジアムまでの交通費も財団が負担するという。
49ersは、2014年シーズン以降にサンフランシスコ市からサンフランシスコ近郊のサンタクララ市に拠点を移した。

その際に、微分積分のAPテスト(高校生を対象に実施される大学レベルの試験)を受験したサンタクララ市の高校の生徒の合格率が、わずか3%と知った。このことが、STEM教育に力を入れるきっかけとなった。
当初20,000人の生徒を受け入れる予定だったが、生徒が殺到して断らざるをえなかった。そこで1年前にできたばかりのスタジアムを改築して、教室エリアを広げた。

「STEMに関連した職業に将来子供たちが就くためには、身近にあるすべてのものが科学技術に関連していることを子供たちに教えなければならない」とディレクターのJesse Lovejoy氏は述べている。


五郎丸選手プロデュースでスポーツにSTEM思考を取り入れるワークショップを開催

スポーツでSTEM教育を行う取り組みは、日本でも少しずつ始まっている。
例えば、ラグビーの五郎丸歩選手がプロデュースする「SOCIAL SPORTS PARK」では、「タグラグビー×数学」のワークショップを開催した。

スポーツでは、フィールド内外でSTEM思考が求められるが、視覚化、数値化されていない部分が多く、経験や感覚に頼ることが多い。このワークショップでは、STEM思考をゲームに取り入れることで、スポーツの新しい価値を訴求することを試みている。

ワークショップでは、まず初めにタグラグビーを経験してから、親と子供それぞれで数学的思考によるスポーツ戦略のグループワークを行う。
その結果をもとに、再度タグラグビーをやってみて、数学的思考の応用に気づきを得るというものだ。

このワークショップを監修した中島さち子氏は、国際数学オリンピック金メダリストであり、ジャズピアニストでもある。
全国の中学生・高校生・高専生が団体戦で数学力を競い合う大会「数学甲子園」の解説や、経済産業省の「『未来の教室』とEdTech研究会」の委員を務めている。

「21世紀は、異なる分野をつなげて新しいものを生み出していく、クリエイティブな時代」と語る同氏は、単なる理系の教育にとどまらない新たな可能性をSTEM教育に見つけようとしている。


STEM教育の取り組みを広げていくためには

こうした取り組みは興味深いが、カリキュラムを作るのに、莫大な時間がかかり、受講できる地域にも格差がある。特にスポーツはオンライン学習だけではなく、実際に体を動かして確かめながら思考していくという体験が必要になってくるため、授業を展開するのに地域的な制約はどうしても発生してしまう。

中島さち子氏のいうように、これからは縦割りに専門性を磨くだけではなく、いろいろな分野につなげてイノベーションを起こすことが必要だ。
そのためには、一過性のイベントではなく、社会全体の取り組みと捉え、学校教育の期間を見据えた体系的なカリキュラムを作成することが求められる。その地道な種まきがあってこそ、自由で創造的な時代を迎えることができるだろう。


<参考・参照元>
21世紀の教育・学習 - 経済産業省
アメリカにおける STEM 教育-次世代を担う STEM 人材の育成
How The San Francisco 49ers Are Using Football To Expand STEM Education In The Silicon Valley | HuffPost
五郎丸歩プロデュースSOCIAL SPORTS PARK 株式会社steAmと東大数理研究者協力のもとSPORTS×STEM教育事業を開始! |株式会社FIELD OF DREAMSのプレスリリース

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