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ITは芸術教育の現場をどう変える?ITが変えるもの・変えないもの

音楽、美術、演劇などの芸術教育の現場でもITの活用が進んでいる。
STEMや医学などの他の教育分野に比べ、ITとの親和性がそれほど高くないとされる芸術教育の現場で、ITはどのような影響を与えているのか、または与えていないのか。

ITが芸術教育に及ぼす影響や、ITがリプレース出来ない物事などについてまとめてみた。


演劇の教育現場ではITの活用は限定的

ITが我々の生活を変えてゆく中、ITは芸術教育の現場をどのように変えているのだろうか。
米国国立演劇芸術研究所デザイン部門ディレクター、マイケル・スコット-ミッチェル氏によると、ITの演劇の教育現場での活用は限定的だという。

「(フランスの)コンセルバトワール式のトレーニングプログラムをベースとする私達の教育現場においては、情報技術が教師の役割をリプレースすることはあり得ません。知識や情報へのアクセスを強化し、教師の教育効果を高めるという特定の目的で活用する事は選択肢としてあり得ますが」とコメントしている。

「私達はEラーニング、オンラインフォーラム、講義動画なども活用しています。しかし、これらの技術は、あくまでもワークショップ、スタジオ、そしてリハーサルルームで働く現場の教師を補佐するものでしかないのです」


ITの普及により生徒の体力が低下?

映画・演劇・テレビアカデミーの講師ルシア・マストラントーネ氏は、ITの普及が生徒の体力に与えた影響についてコメントしている。

「私は、20年間演劇指導をしていますが、最近の生徒達の体力とスタミナが低下してきていると感じています。
クラス開始直後にいつも軽い準備運動をするのですが、ゆっくりジョギングをしたり、床で体操をしたりするといった簡単な動作でも、10年前の生徒達とに比べて明らかに体力が低下しています。
また、多くの生徒がバク転や逆立ちなどの動作をする事に恐怖を覚えています」

「これは、もしかしたら演劇を学ぶ若い生徒達に限らないのかもしれません(ITが普及した事により)。現代に生きる私達すべてが、以前と比べて体力を使う動作をしなくなっているのでしょう。」

演劇指導の現場におけるITのネガティブな影響を懸念する一方で、マストラントーネ氏は世界中の演劇作品をインターネットでクラスの生徒達と一緒に鑑賞しているという。
マストラントーネ氏の芸術教育の日常は、ITによるプラスとマイナスのどちらの影響も受けているようだ。


ゲームやアニメーションの世界でも活用は限定的

アニメーション、ゲーム、映像制作などを教えるJMCアカデミーの講師、キム・エドワーズ氏も、自身が教えるゲームとアニメーションの世界においてITは「基礎」であるとしながらも、ITは時にネガティブな影響を与えるとしている。

「時間と空間の中でモノがどのように動くのかを想像してみて下さい。
コンピューターを使ってそれをやろうとすると、実際のモノの動きとはまったく違うものになる場合もあります。生徒に実際のモノの動きを正確につかませるには、実際にボールを床に落としてバウンドさせ、それをスケッチさせる必要があります。
コンピューターが代わりにそれを行う事はできません。そのように、ITが生徒を教える上で障害になる場合には、脇に置いておくべきでしょう。コンピューターなしに生徒達を指導する事ができるのなら、その方がより良い結果が得られるでしょう。」

アニメーションがフルCGで作られるようになった現在、現実的にはあり得ない動きをアニメーションで表現する事が可能になった。
一方で、現実の動きを、現実のモノを見ながら確認することの重要性を同氏は訴えたいのだろう。
今でも多くの日本のアニメーションが手描きで制作されているが、世界中から高い評価を受けている理由は、その辺の事情と関係があるのかもしれない。


芸術教育における対面指導の価値は不変

アデレード芸術大学演劇部部長のテレンス・クロフォード氏は、教師と生徒との動的な関係を、ITはポジティブな方向へ変化させているとは思えないとコメントしている。

「パフォーマンス・アーツ教育学における伝統的な指導方法は強烈です。教師と生徒はスピーディーに、直感的に、幻想的に動き、そしてお互いに「感じる」事が求められるのです。劇場とは、基本的には原始的な舞台です。そして、その原始的な舞台は、原始的な要素によって最も良く構成されるのです。」

「劇場にも様々な新技術が使われ始めてはいます。しかし、そのほとんどは、劇場の原始的な要素をさらに原始的にするために使われています。
そのような世界においては、教師の役割は、新技術に原始的要素を原始的要素にさせないようにすることを防ぐ事なのです。生徒達に新技術の森の中から本物の生きた木を見つける方法を教えるためには、真に優れた演劇指導者が必要なのです。」

なによりも感性が求められる芸術教育の現場では、冒頭のスコット-ミッチェル氏がコメントしたように、ITの活用は限定的なのだろう。
特に演劇などのパフォーマンス・アーツの世界では、ITが人間の指導者をリプレースすることは絶対になさそうだ。
最近、ある著名アメリカ人演劇指導者の存在を知人から教えられたが、その人のワークショップも「魂の指導」を売りにしていた。
生徒の中にはアカデミー賞受賞者が数人いるというその指導者の言葉は決して嘘ではないと、この記事を書いていて確信した。


<参考・参照元>
How technology is changing arts education | ArtsHub Australia

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