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ポメラの新製品から考える。ハイスペックであることが魅力とは限らない[コラム]

折り畳み式キーボードには、不思議な魅力がある。
カチャッと開くと普段使っているパソコン用キーボードと遜色がない使い勝手のキーボードに変形するギミックは、技術とアイディア、そしてその「わざわざ」感も含めて、使ってみたいと思わせる。

テキスト作成しか出来ないことも、デメリットではなく魅力に映る。
10年前はそれが最先端だったけれど、10年経った今でも、その魅力自体が衰えていないことに、今後のデジタルガジェット開発のヒントがあるはずだ。


キングジムのデジタルメモ、ポメラの新製品「pomera DM30」が発表された。
テキスト入力に特化したコンパクトな電子メモ帳として、最初の製品が発表されてから10周年だという。ということは、スマートフォンの登場と時を同じくして発売された製品だったわけだ。

当時、まだiPhoneは文章入力環境としては不十分だったし、ノートパソコンはまだ厚く重かった。スマートフォン普及の前という事は、インターネットへの接続が常に手元で行えるという状況でもなく、一方で、PalmやPocket PCなどの、いわゆるPDAに人気が集まっていた。

そんな時代だったけれど、それでもデジタル機器というのは多機能なのが当たり前で、PDAでさえ、電子手帳的な方向よりも、ポータブルなコンピューターという方向に向かっていたせいか、「テキスト入力しかできない」デバイスは、相当冒険的な製品だと思われた。
それは開発したキングジム自体も、同じように考えていて、しかし、蓋を開ければポメラはヒット商品になった。

その大きなポイントが、折り畳み式のキーボードというギミックにあったのは間違いないところ。コンパクトなテキスト入力マシンというコンセプトの最も需要なポイントは、多機能だということでも、ネットに繋がることでもなく、快適に入力できる事と携帯性の両立だったのだ。

コンピューターで行う作業の中心は、文章入力だと考えるユーザーが多かったのだ。実際、PDAユーザーの多くは、スケジュール管理よりもテキストを入力したり、テキストを閲覧したりという用途で使っている人が多かったように思う。
それこそ、文字入力は、文章作成だけでなく、メモ用途にもプログラミングにも、アイディア出しにも使うわけで、さらに入力したテキストをパソコンなどに持っていけるのなら、かなり様々な作業が行えることになる。

ただ、いわゆるPDAは携帯性に重きを置くあまり、テキスト入力の面ではパソコンにはかなわなかった。
ノートパソコンが、現代もそれなりのサイズになってしまうのは、結局、快適な入力のためには、在る程度のキーボードのサイズが必要だからだ。だから、ポメラの折り畳み式キーボードが歓迎された。

しかも、きちんとフルサイズのキーボードと同じ感覚で打てるように作られていたのだから実用性は保証されたようなもの。
そして、ここが大事なのだけれど、コートのポケットに入るサイズの機器が、開くとフルキーボードになるというギミックに多くの人が惹かれたのだ。

ポメラの新製品「pomera DM30」が面白いのは、最新機種にも関わらず、そのスペックや機能の面で、2017年に発売された「pomera DM200」を下回るということ。
実際に使ってみても、文章入力マシンとして考えると、圧倒的にDM200の方が便利だ。
しかし、DM200は便利だけれど、キーボードがストレートタイプで、言わばコンパクトなワープロ機。ポメラのコンセプトである、デジタルメモというカテゴリからは外れてしまう。

また、キングジムの調査でも、ポメラには折り畳み式のキーボードを求める声が大きいという結果が出ていた(どちらが良いかというアンケート結果では、ほぼ半数が折り畳み式を支持していた)。

薄いけれど大きいDM200と小さいけれど厚いDM30を比べた時に、やはり「小さい」のはDM30なのだ。
実際の大きさではなく、フルキーボードが使えるガジェットとして見た時、フルキーボードの横幅がそのままボディサイズになっているDM200は「小さく」ないのだ。小さくないなら、ノートパソコンでも良いという事になる。

しかも、DM30はネットに繋がらない。スマホが手元にある現在、テキスト入力しかできないというのは、特にハンデにはならないどころか、気が散らないで良いとか、接続環境を考えなくて良いとか、もはやメリットになっているのだ。

そして、画面は光らないE-inkを使った電子ペーパー。光ることで周囲に迷惑をかける事がなく、真っ暗では使えないから、無理な仕事をするハメにもならない。
この便利過ぎないけれど、十分使えるというバランスや、折り畳み式キーボードのガジェットらしい感触は、デジタル機器の魅力に最初に触れた時のような新鮮さと、ちょっと不便だけど使っていることが楽しいという可愛らしさに繋がる。

そもそも、テキスト入力に便利も不便もあまりない。打ちやすいキーボードと見やすい画面があれば、後はどうにでもなる。少し前に流行った、机の上にキーボードを投影するタイプのガジェットがダメなのは、キーを「打つ」感触が得られないからだ。感触が無ければ、常にキーを見続けなければならない。
そして指には板を叩く感触しか伝わらない。それでは快適な入力は得られない。ただ小さいキーボードも同じだ。そういう意味で、折り畳み式のキーボードというのは、仕事場以外でのテキスト入力のスタイルとして、色々な意味で魅力的なのだ。

ただ、それはあくまでもガジェットとしてであって、ノートパソコンにわざわざ折り畳み式キーボードを搭載すると本末転倒的なパソコンができあがる。
ポメラが10周年に、DM30を出してきたというのは、デジタル機器の現在を考える時、とても重要なポイントになるだろう。

便利であることと使いたい道具であること、コンパクトであることと、コンパクトに見えること、高機能である意味、多機能である意味、道具としての完成度と魅力の違い、などなど、デジタル機器が身近にあることが当たり前になった今だからこそ考えなければならないことは多い。

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