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イーロン・マスクの時速約1,000km地下トンネルは未来の交通インフラとなるか

「地下に穴を掘り、40層の立体トンネルを作る。」―イーロン・マスクは、国際会議「TEDカンファレンス」でそう語った。
その考えを多くの専門家がクレイジーだと笑った。しかし、その荒唐無稽な構想が少しずつ現実味を帯び、未来の交通インフラとなる可能性が高まっている。


時速約1,000kmの高速交通システム「ハイパーループ」の仕組みとは

ここでの地下トンネルとは、2013年にイーロン・マスクが発表した「ハイパーループ構想」を指す。
当時カリフォルニア州では、ロサンゼルスとサンフランシスコを結ぶ高速鉄道の開通が計画されていた。その約700億ドルという高額な費用が現実的でないと考えたイーロン・マスクが、ロサンゼルス~サンフランシスコ間を結ぶトンネルを建設するのに、60億ドル~100億ドル(2018年7月4日現在日本円にして約6,620億円から約1.1兆円)と約10分の1にコストがおさまる方法を提唱した。

なぜ、コストを抑えることができるかというと、トンネルを走行する車両の仕組みによる。
ロサンゼルスの地下にトンネルを掘り、「スケート」と呼ばれる電動プラットフォームにエレベータで降ろし、車両や乗客を乗せたポッドで高速走行する。その速さは、時速120マイル(約193キロ)。
都市間をつなぐ高速トンネルでは時速600マイル(約960キロ)となり、サンフランシスコとロサンゼルスを30分で結ぶ。
ポッドは空力設計されたアルミ製で、ほぼ真空状態のチューブの中を磁石とファンで浮上し推進する。浮上に電力が必要ないため、省電力な運行ができ、線路を敷設する必要がないため、コストを抑えられる。

この構想には、懐疑的な見方も多かったが、2017年、イーロン・マスクは本当にトンネルを掘り始めた。
トンネル掘削会社、ボーリングを設立し、当局の許可を得てCEOを務める宇宙ベンチャー、スペースXの本社周辺、ホーソンという地域に数kmのトンネルを掘削し、実験しているとみられる。

そして、2018年5月には自身のInstagramでトンネルの掘削をほぼ終了したと発表した。
当局から承認を得ることができれば、数カ月以内に市民が無料で乗車できるとしている。しかし、トンネルがどの程度完成しているかは未知数だというのが大方の見方だ。
Instagramにはトンネルを実際に走行している動画がアップされているが、これが本物であるかボーリングでは公式の見解を示していない。
また、輸送問題の専門家によると、地下トンネルが渋滞を悪化させるだろうという評価もある。トンネルの入り口で車が渋滞する可能性が高いというのだ。
ロサンゼルスは地震活動が活発なうえに、メタンガスが噴出する箇所もあり、トンネルの掘削コストも大幅に高くなるとみられている。

引用元:The Boring Company | Tunnels


ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズはフランスでチューブを建設へ

こうした課題を抱えながらも、ハイパーループを実現しようとする取り組みは広がっている。
ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズ(HTT)は、フランスで実験用チューブの建設を開始した。イーロン・マスクが取り組むような地下トンネルではなく、陸上にチューブを配置しコースを建設する形をとる。

2018年には前長320メートルのコースが完成し、2019年には1kmのコースとなる予定だ。車両はスペインの企業が開発しており、2018年夏に完成し運び込まれる予定だ。
ハイパーループの構想は韓国でも検討されている。HTTは韓国政府と提携し、首都ソウルから南東約320kmのプサンまで30分で結ぶ超音速交通システムの構築について、ノウハウの一部を提供することとなっている。
HTTのCEOダーク・アルボーンは、ハイパーループは技術的な問題よりも規制の方が、ハードルが高いと指摘する。
その点、韓国のプロジェクトの場合は政府が推進しているため、法規制の問題も比較的スムーズに解決できる見通しだ。


トラック輸送並みのコストで実現「カーゴスピード」

HTTのライバルとしてあげられるのが、バージン・ハイパーループ・ワンだ。
同社は貨物を超高速で輸送できるシステム「カーゴスピード」をUAEの運輸会社DPワールドと提携して構築している。

同社はアメリカ・ネバダ州の砂漠にある全長500メートルの実験施設で、実際の車両を用いた実験をすでに成功させている。
時速約310kmを達成しており、いずれはトップスピードが時速約1,000kmを達成するとしている。実現すれば、航空便と同等の速さをトラック輸送に近いコストで実現できるとしている。
インドでも、ムンバイとプネをハイパーループで結ぶ計画があり、すでに両都市があるマハラシュトラ州の政府と建設に合意している。
2~3年以内に試験トラックを建設し、実用化するのはさらに5年~7年かかる見通しだ。

2017年に、前身の「ハイパーループ・ワン」は、ヴァージン・グループと大型契約を結び、グループの創業者であるリチャード・ブランソンが会長に就任した。
リチャード・ブランソンといえば、ヴァージン・ギャラクティックを設立して民間の宇宙旅行計画にいち早く乗り出しており、宇宙開発についてもイーロン・マスクとしのぎを削る。
ハイパーループにヴァージン・グループの資金を投じることで、次世代物流網でリーダーシップを取りたい狙いもあるだろう。

引用元:How Virgin Hyperloop One's System Becomes Reality


交通と物流にブレイクスルーへの期待

HTTのアルボーンCEOが指摘するように、法整備が大きな課題となるだろう。
スピードを出すにはなるべくカーブがないコースを確保する必要があるし、人を乗せるのであれば安全面もハードルになるだろう。

しかし、それでもなお、イーロン・マスクやリチャード・ブランソンのような富豪がハイパーループに注目するのは、次世代の交通や物流が社会に多大なインパクトを与えるとみているからだろう。
交通や物流の変革が進まないのは、インフラ構築についてコストの圧縮が難しいからだ。もしハイパーループがコストに見合うようになれば、交通も物流も劇的に変化し、経済成長に寄与するはずだ。
手に入らなかったものが手に入る。そんな喜びを世界中の人が享受できる日も近い。


<参考・参照元>
マスクがインスタで明かした地下交通の衝撃 | ロイターより | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
CNN.co.jp : イーロン・マスク氏のLA地下トンネル、ほぼ完成 無料走行も
時速1000キロのハイパーループCEO:初商用ルートはアジアか中東か —— 日本企業も参画 | BUSINESS INSIDER JAPAN
CNN.co.jp : 時速1000キロで荷物を輸送、運輸の革新目指す「ハイパーループ」

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