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キーボードやマウスのエルゴノミクスデザインに疲労軽減の効果はあるのか?[コラム]

エルゴノミクスデザインという考え方は、もう随分前からあって、しかし、エルゴノミクスデザインのキーボードやマウスは、いつもピンと来ないものが多くて、それでも研究は継続している。

ただ、その成果が分かりにくいのも確かで、デザインだけで疲労や肩凝りが簡単に軽減するなら苦労はない。多分、即効性を期待する私たちが間違っているのだ。

ここでは、新製品のマウスを中心に、もう一度、エルゴノミクスデザインを見直してみた。

ロジクールが2018年9月20日に発売する新しいマウス「Vertical MX」は、マウスには珍しい縦型。
それで「垂直」を意味する「バーチカル」が製品名に入っているのだけれど、その名の通り、かなり変わった形をしている。マウスの上部が立ち上がったような、代々木体育館のような、その独特な形状は、人間工学、いわゆるエルゴノミクスに基づいてデザインされたものだと言う。
この、「人間工学に基づいたデザイン」と銘打たれた製品は、今までも、マウス、キーボード、筆記具、ノート、照明機器や机、イスなど、ビジネスの周辺の道具類には沢山あった。

しかし、筆者が知る限り、その手の製品が、本当に使いやすかったという記憶はない。もっとも、一部の椅子や照明機器の場合、使用範囲を限定すると使いやすいと感じるものもある。
仕事をする姿勢を取りやすくする椅子や、照明の位置や角度を机の上のパソコンを使うに当たって最適にするものなど、それなりに理屈とデザインが一致して、それなりの効果があるように感じるものはあった。しかし、それらは、細かい部分をユーザーに合わせて調整できるようになっているし、単一目的のためのデザインなので、効果が分かりやすい。

しかし、例えばこれが筆記具となると、握りやすいと言われても個人差があるし、力の入れ方も個々に違うし、用途も様々になってくるので、状況を限定できない分、人間工学を取り入れる意味が薄れてしまう。
握力のない人向けとか、正しい持ち方をするため、などと、目的がハッキリした上でデザインの中に取り入れないと、あまり効果がないのが、人間工学ではないかと思ってしまう。
また、今回のマウス「Vertical MX」もそうだが、エルゴノミクスデザインというと、何故か曲線が多用された、ちょっと「ぐにゃっ」とした感じの形状になりがちなのも、何となく、その信憑性を下げている気がする。もちろん、手の中で使う道具の場合、直線的よりも曲線の方が馴染むのは分かるけれど、それこそ手の大きさや指の長さなどの個人差は、どう吸収するのかと考えてしまう。

ところが、この「Vertical MX」は、かなり色々な事を考えて作られていて、製品そのものよりも、その考え方が面白いと思った。
例えば、このマウスを使う事で疲労度が10%軽減するというのだけれど、10%の軽減が体感できるかというと、それは難しい。
つまり、ちょっと触ってみたくらいでは、従来のマウスと比べて楽になったかどうか分からないという事なのだ。

実際に使ってみても、手を伏せるよりも立てていた方が自然な感じはするけれど、実際に操作する時は手首を持ち上げる必要があるし、となると疲労度にそれほどの差が出るとは思えないのだ。
しかし、調査によると、ビジネスマンが1日にマウスを使う時間は、平均で約72分、距離にして30メートル程度、1年にすると約10キロメートル動かしているそうで、その10%というと、約1キロメートル分楽になるということだ。
10分使って、9分使った時の疲労度と言われても、その差は体感できないが、1年で1キロメートル違うとなると、肩凝りなどの実際の体への弊害は多少減らす事ができそうなのだ。

つまり、エルゴノミクスデザインが今一つピンと来ないのは、使い続けていなかったからかも知れないのだ。
そして、もう一つ、今回の「Vertical MX」は、ハーマンミラージャパン社と組んで、ハーマンミラーのオフィスチェアのベストセラーである「アーロンチェア」の購入者先着1000名にプレゼントされる。「アーロンチェア」もまた、エルゴノミクスデザインの椅子として有名な製品。このエルゴノミクスデザインの製品を組み合わせて使うという発想が面白いのだ。

椅子で姿勢をサポートして、握りやすいマウスを使うというコンビネーションは、それぞれを使うよりも疲労度の軽減に繋がりそうだ。私たちが、エルゴノミクスデザインに、あまり信用が置けなかったのは、もしかすると、マウス操作だけで多少疲労を軽減しても、身体全体には大した影響がないと思っていたからではないだろうか。
そもそも、疲れる作業をやっているのだから、道具一つで劇的に楽になるはずがないのだ。

しかし、3Dプリンタの普及で細かく仕様を変えた試作品を沢山作る事が可能になり、人間工学自体の研究も進み、それぞれのパーツで、少しずつ疲労を軽減する程度なら、それなりに成果が出せるようになったのが、現在だとしたら、今後のエルゴノミクスデザインは、トータルな作業環境全体を見渡したものになるのだろう。

椅子、机、モニター、キーボード、マウス、照明が、それぞれの役割として、少しずつ疲労度を軽減してくれれば、そして、それらがきちんと連携して働けば、パソコン操作に関する疲労や肩凝り、腰痛といったものは、それなりに楽になるはずなのだ。

「時々、立ち上がれ」といった、ストレッチ的なものも重要だけれど、基本的な作業姿勢や動作が楽になるに越した事はない。

今回「Vertical MX」を使ってみて、その本体がやたらと軽い事に感心した。デザインだけではなく、そういう捜査の基本的なところを、楽に使えるようにしている、その積み重ねが、使いやすい製品になる、ということを分かって作っている感じがしたのだ。

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