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ラスト1マイルは本当に高い壁なのか。いまひとつIoT化が進まない原因[コラム]

結局、人間が使う以上、あらゆるデジタルデータは出力の際にはアナログに変換される。
文字や絵は画面に表示されないと見る事ができないし、印刷されないと手に取る事ができない。IoTにせよ、現状では、何らかの家電を動かすためには、物理的な動作が必要になる。

それは分かり切った事で、しかし、どこかでその部分は人をデジタル側に合わせた方が合理的だとする考え方が常識化しているように感じる。
IoT化が進まない原因は、多分、そこにある。

デジタルの世界では、昔から「ラスト1マイル」という言葉が聞かれる。
最初に聞いたのは、インターネットが一般家庭に普及する寸前、光回線は各家庭のすぐ側まで来ている、問題は、そこから家庭までのラスト2マイルだ、といった話だったと思う。
まあ、1マイルというと1.6Kmで、それを僅かと考えるのは、何となく無理のような気もするが、要するに、準備はほぼ整っているのに、そこから実用段階になるのには、意外に遠い1マイルが残る、という話である。

これは、デジタルの世界に限ったことではなさそうだが、実際のところ、結局、人と繋がる際には、アナログに変換しなければならないデジタルにこそ、ラスト1マイルが高い壁として立ちふさがっているということなのだ。

実際、デジタル内で完結する技術なら、すぐに実用化する。クラウドサービスのようなデータを扱うだけのサービスは、ラスト1マイルは存在せず、だから料金もどんどん安くなって、容量はどんどん増えた。
容量だけではお金を払い続けてもらえないと機能を増やしては失敗しているのは、ラスト1マイルのせいではなく、本来、データをデータのまま扱うサービスは、機能が求められているのではないというだけのことだ。

そのわりに、インターフェイスが全然よくならないのは、そこだけが、アナログとの接点で、そこはもう、ラスト1マイルどころか、ラスト1cmなのだけど、未だにユーザーインターフェイスをユーザーフレンドリーな形で提供するという部分を苦手としているのがバレてしまっているというだけのこと。

Slackにしても、Google Documentにしても、どこか、ツール側にユーザーが合わせるような使い方が前提になっているのは、もうラスト1マイルをどうにかするのが面倒くさくなっているとしか思えないくらいなのだけど、それは結局、多少の不都合があっても、ユーザー側の慣れで解決するなら、どちらの方がコスト的に有利、という考え方が合理的とされているからだ。

そして、それは、ラスト1マイルの放棄と同じ意味でしかない。
どこか、デジタルの情報をアナログに変換するのは無駄で、わざわざするモノで、だから不便になっても仕方がない、という発想が常識のようにビジネスの世界に浸透している。

IoTにしても、注目されている分野だと言いながら、未だに、部屋の灯り一つ点けるのにも、物理的にスイッチを押す仕組が必要だったりする。それなら、指でスイッチを操作する方が早い。
何といっても、部屋の照明のスイッチは、人が押しやすい場所に付いているのだ。これが当たり前のユーザーフレンドリーである。そのスイッチの上に、機械的にスイッチを押す道具を貼り付けるという段階で、もうIoTの滑稽さが見えてしまう。

音声によるコマンド一つで部屋の照明をオンオフできる、という面白さのために、デジタルを使って、物理的にスイッチを押すというのは、確かに面白いけれど、面白いだけなのだ。
本気でそのラスト1マイルをどうにかしたければ、照明機器のリモコンの規格を統一してWi-Fiで動かすようにすればいい。そして、そのバーツを一般のリモコン式照明機器にアタッチメントとして搭載できるようにすればいい。

しかし、そういうことはしないで、IoT対応住宅なんてものを作ったりする。なのに、その住宅は、LANのモジュラージャックがあるわけでもない。せいぜいUSBの充電口があるくらいだ。
照明は部屋に入る時にドア脇のスイッチでオンオフするから、それよりもむしろ、部屋のどこにでもLANケーブルが繋がるようにしてもらいたい。

各家庭で、自分で配線できる仕組とキットがあれば、家庭内のデジタル化、IoT化なんて、あっという間に進むのに、そういう方向にはあまり進まないまま、ラスト1マイルが問題だと言っている。
解決する気がないなら、問題も解決しないのだ。

かつて、電話料金は従量制で、データ料金は定額だったのが、いつの間にか電話料金は安く定額になり、データ料金は従量制になって高くなった。
こういう先の見えない恥ずかしい商売を許している現状で、デジタルが生活や仕事をよりよくしていくと考えにくいと思ってしまうのは、長年のネットユーザーとしては仕方がない。
インターネットの定額接続が、極端に安くなったように、大きな変革は、基礎部分に対して儲けようとしても行えないのだ。

もはや、デジタル内部で片付くサービスは、安くなる一方だ。だからこそ、デジタルと外部を繋ぐ、アナログとの相互変換に関するアイディアこそが重要になる。
私たちは、いつまで請求書を印刷して、ハンコを捺して、郵便物として先方に送らなければならないのか、という話である。コンサートの入場口で免許証を見せなければ入れないといったような、ユーザーへの一方的な不利益をサービス業側が行わざるを得ない状況に、何故陥ってしまったのか、という話である。

デジタルが、デジタルとしての機能を十全に果たせるように、サービスを構築する能力こそが、IT産業が基礎としてもっていなければならないスキル。
そういう意識も認識も育たなかった20年だから、今もラスト1マイルが問題、と、呑気に話されている。

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