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身体機能を拡張するテクノロジーは「怪しさ」に勝てるのか[コラム]

技術的な進歩によって、医療電子機器とパーソナル電子機器の双方の位置は大変近いものになってきた。
近い将来、ウェアラブルデバイスはさらなる進歩を遂げ、これまでは医療機器でしかなされなかった「身体への埋め込み」というアプローチも次第にポピュラーになって行くだろうという予測はできる。

ヒトはこれまでの長い歴史の中で異端扱いされてきた「身体改造」のイメージを払拭して、自らをハードウェア面でバイオハッキングできる未来は受け入れられるのだろうか。

身体に刺青を入れたり、穴を開けて装飾したり、モノを埋め込んだり嵌めたり、時にはもっと過激な手段をもってして身体の形を変えたりといった「身体改造」は、人類の歴史のうえでたいへん古くから行われてきた文化だ。

それは時には呪術的な意味合いを持ったり、他者に対する支配的な行為だったり、伴侶や富の獲得において個人の価値を高めるためだったり、カウンターカルチャー的な思想やファッションだったりと意味を変えながら、それでも常に我々の身近に存在してきた。

一方で、身体に装着する実用的な道具たちもまた、長く人類とともに歴史を歩んできた。
義手や義足のように、不自由が起きた身体の機能を補うための装具は技術の進歩によって洗練され、素材や機能もどんどん進化。電子制御が実現してからはロボティクス技術が応用され、飛躍的な進歩を遂げることになる。

筋電義手、バイオニック義足の開発はすでに実用段階に入っているし、義足広い地域に大きな被害をもたらした西日本豪雨の被災地では、サイバーダイン社のロボットスーツがボランティアに貸し出され、作業を助けたというニュースが報じられたのは記憶に新しいが、ロボティクス技術の発達により、道具は「不足を補う」レベルを上回り、もともとの身体機能以上の力を発揮できる「身体改造」も可能になろうとしている。

さらに、補聴器やペースメーカーのようなウェアラブル装具がある。これらの医療電子機器が小さく高機能になると同時に、それまでは身体と離れていた電話機やコンピュータもまた小さく高機能になり、ヒトの身体に装着する道具へと進化したとき、その両者が互いに近づくのは当然の流れだ。
JabeesのワイヤレスイヤフォンAMP soundやNUHEARAのフルワイヤレスイヤフォン「IQbuds」には、Bluetooth接続デバイスからの再生音声を聴くだけでなく、外から聞こえてくる音を最適化して、補聴器をつけるほどでもない程度の「聞こえにくさ」を改善する機能を搭載されている。

また、次世代のApple Watchには、これまでの心拍数の計測機能に加えて、血糖値の計測機能が搭載されるという話もある。Oculus社の単体型VRヘッドマウントディスプレイは、近視の人にも裸眼でどこまでも遠くまでの景色を見る感覚を体感させてくれる。
スマートフォンやスマートウォッチ、ウェアラブルコンピューターと、イヤフォンやマイク、ICカードなどが全て身体に携帯・装着した状態で連動することで、人はある意味“身ひとつ”で、生身では行えない様々な能力を“身につける”ことが可能になり、こちらは「身体拡張」のジャンルにまで及べるほどに進化しつつある。

このように、医療機器とガジェットの境目がどんどん曖昧になって行けば、近い将来、義肢・肢体補助装具のコントロールデバイスや各種ウェアラブル装具から身体埋め込みへと進化し、医療機器以外のデバイスも追随していくだろうことは想像に難くない。

マイクロチップを家畜やペットに埋め込むことは、1980年代後半からすでに実用化されており、フィジカル面での安全については問題ないとされていること、非接触ICチップが、すでに社会的に実用化され広く使われるようになったことから、人間へのマイクロチップ埋め込みも、そう過激な話でもないはずだ。

スウェーデンではすでに個人的にRFIDを使ったパッシブ方式(自分からは情報を発信せずに、リーダーを近づけて読み取る)のマイクロチップを身体に埋め込み、電子マネーの決済や電子キーの開閉、交通系IC機器の利用などを行なっている人々が3500人以上もいると報じられている。

しかし、そのようなトランスヒューマニスト系バイオハッキングには、どうしてもアンダーグラウンド的なイメージがあるのも確かだ。そのイメージは、おそらく最初に書いた「身体改造」の歴史によるものだろう。

実際、カウンターカルチャー系の身体改造マニアの間でも、電子機器のインプラントやそれによる意識の変容は最先端のムーブメントとして盛り上がりを見せている。そして、その層が「身体改造」だ「ネオ・ヒューマノイドへの変容だ」と盛り上がれば盛り上がるほど、埋め込み型デバイスにはマニアックな、下手をすると反社会的なイメージが付いてしまう。

こうした「身体改造」の胡散臭いイメージをどうやって払拭していくかが、医療器具以外の埋め込み系のデバイスの普及のキモとなるだろう。
日本では特に、ピアスや刺青のような「身体に傷をつける行為」に対する嫌悪感が根強く残っている。「親からもらった身体に〜」というそれだ。髪を染めることにすら眉をひそめる風潮は、なかなかに厄介な心理的障壁である。

しかし、この壁をじょうずに乗り越えていかない限り、日本は電子マネー後進国になりつつあるのと同様、バイオチップ活用の分野でも大きく後進していってしまう可能性も少なくない。

アメリカでは昨年、従業員に同意のもとでマイクロチップの埋め込みを実施した企業が現れ、従業員の過半数が利便性を理由に埋め込みに同意している。
アクティブ方式のチップが埋め込み型として実用化すれば、徘徊の恐れのある人や、連れ去りの危険がある子どもたち、逆に性犯罪の累犯者など再犯率の高い人物の位置情報をチップ埋め込みは大きな恩恵をもたらす可能性もある。

もちろんデータのセキュリティや悪用のリスク、健康被害のリスクなど、念には念を入れた研究は必要だろう。
でも、そういった合理的な理由でなく、感情的、感覚的な理由が真っ先に否定されるとしたら、テクノロジーの負けだ。


<参考・参照元>
バイオニック マン: ヒュー・ハー氏が次世代のロボット義肢で前進する未来
ロボットスーツ、被災地活躍の舞台裏 「社内でかき集め、大急ぎでプログラム書き換えた」──西日本豪雨で - ITmedia NEWS
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