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AIを用いたうつ病用の認知行動療法をスタートアップが開発

医療系スタートアップ企業のウーボット・ラブズがAIを使ったうつ病用認知行動療法チャットボットを開発している。ウーボットは自然言語処理系AIを使い、患者一人ひとりの病状に合わせて認知行動療法を最適化するというチャレンジングな取り組みを行っている。AIは精神医学の領域でも助っ人となれるのか。


全世界で3憶人、増え続けるうつ病患者

WHOによると、全世界で推計3億人がうつ病に罹患している。うつ病はあらゆる病気の中で患者に最も大きな経済的負担を負わせ、時に自殺などの悲劇的な結末をもたらす。また、うつ病には効果的な治療法があるにも関わらず、患者の半数以下しか適切な治療を受けていないとされる。

うつ病の治療には薬による治療と心理的な治療がある。
前者は抗うつ薬などを使い、うつ病の発症を抑えたり症状を軽くさせたりする。
他方、後者は精神的なアプローチで、うつ病患者が抱えがちな否定的思考パターンをより柔軟なものに変えてゆくというものである。

心理的治療方法のひとつ、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy 、CBT)は、うつ病治療に最も効果的であるとされており、一般的には、専門の精神科医が患者と面談し、患者の悩みや問題点などを洗い出して治療方針を決め、患者と共有しながら思考パターンを変える努力をしてゆく。認知行動療法を成功させるポイントは、患者にとって最適な治療方針を策定し、それを予定通りにこなしてゆくことだ。

ところで、このプロセスそのものをAIにやらせるというユニークな取り組みをしている企業がある。
サンフランシスコに拠点を置くウーボット・ラブズだ。


ウーボット・ラブズはどんな企業なのか

ウーボット・ラブズ(Woebot Labs)は、2017年にスタンフォード大学出身の心理学者アリソン・ダーシー氏が設立したスタートアップ企業だ。ウーボット・ラブズは、認知行動療法を行うチャットボットのウーボットを開発し、Facebookとモバイルアプリで公開している。

ダーシー氏はスタンフォード大学で15年間臨床研究に携わり、数多くの精神疾患患者と接してきた。増加する患者に対し、専門の医師の数が圧倒的に不足する中、ダーシー氏はインターネットとAIを使ったソルーションの開発を古くから構想していたという。

ウーボットの使い方は簡単だ。ユーザーはFacebookのメッセンジャーかモバイルアプリをインストールしてウーボットにアクセスする。ウーボットにアクセスするとウーボットの方から「こんにちは」「ご機嫌いかが?」などと話しかけてくる。ウーボットはユーザーと対話しながら動画を見せたり、ゲームへの参加を呼びかけたりもしてくる。同時にユーザーのコメントを記録し、ユーザーの心理パターンを学習してゆく。ウーボットとユーザーとのセッションは1日15分程度で修了し、ウーボットによるCBTプログラム全体は数週間程度で修了する。


スタンフォード大学の調査でも効果が実証

ところで、ウーボットの実際の効果はどうなのだろう。スタンフォード大学医学部が行った調査によると、ウーボットを2週間使った患者に症状の明らかな改善が認められたという。通常の精神科医による面談では、CBTの効果が確認できるのに通常5週間程度かかるとされるが、ウーボットの効果は極めて高いと言えるだろう。

なお、ダーシー氏は当初、ウーボットを18歳から28歳の年齢層に合わせて開発したそうだが、実際にリリースしてみると、高齢者を含む幅広い年齢層のユーザーがウーボットを利用していることがわかったという。
人間の医師によるCBTでは、時間と物理的な制約が患者に課せられるが、ウーボットはチャットボットなので24時間365日いつでもアクセスできる。しかもモバイルから簡単にアクセスできるので、高齢者でも簡単に使える。気軽に簡単に、いつでもアクセスできるウーボットは、精神医療の世界のゲームチェンジャーとなる可能性がある。


精神医学の世界でもAIは助っ人になるか?

ところで、ウーボットにはベンチャーキャピタルのニューエンタープライズ・キャピルと、ディープラーニング技術の権威アンドリュー・Ng氏率いるAIファンドから、シリーズA投資で800万ドル(約8億4,000万円)が投資されている。創業間もないスタートアップ企業が実質的なシードファイナンスでこれだけの資金を集めたことから、同社がどれだけ注目され、期待されているかがわかる。

ダーシー氏は、ウーボットは今後、CBTの対話技術を向上させ、患者一人ひとりの性格や病状に合わせてアドバイスをより最適化させる方向に進化するだろうとしている。ウーボットが日々入手する膨大な情報が、ウーボットの性能をさらに高めてゆくイメージだ。なお、ウーボットの開発にはスタンフォード大学人工知能研究所が関与している。

ところで、気になるウーボットのビジネスモデルだが、ウーボットはどのようにマネタイズするのだろうか。現時点ではウーボットは誰でも無料で利用できる。スマホアプリも完全無料だ。多くの臨床研究プロジェクトが資金不足で中止に追い込まれるのを嫌というほど目撃してきたというダーシー氏は、「持続可能なビジネスをつくることが最も確実な生きる方法」であるとしていて、マネタイズの必要性は十分に認識しているようだ。

創業間もない頃のGoogleも、当初はマネタイズの方法を模索していたようだが、Googleと同じスタンフォード大学発のスタートアップ企業として、いずれマネタイズに成功するのではないかと筆者は考えている。

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