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ブロックチェーン技術で乳がんの画像データを保護・ハドリー教授の挑戦

マンモグラフィー画像を共有し、AIを使ってマシンラーニングさせれば乳がんの診断精度は飛躍的に高まる。しかし、個人情報保護などの問題が実現を阻む。それをブロックチェーン技術を使って個人情報を保護し、画像共有を実現しようとカリフォルニア大学のハドリー教授が挑戦している。そのユニークな取り組みを紹介する。


女性にとって恐ろしい乳がん

アメリカ人女性の8人に1人は、生涯に1度は浸潤性乳がんを発症する。2018年の1年間に266,120人の新規の浸潤性乳がん患者が生まれると見込まれており、皮膚がんと並び、乳がんはアメリカ人女性が罹患する確率が最も高いがんとなっている。

乳がんは女性にとって非常に恐ろしい病気だが、早期に発見できれば早期の対応が可能だ。そして、乳がんの早期発見に力を発揮するのがマンモグラフィーと呼ばれる乳がん専門のX線検査機器だ。マンモグラフィーで乳房の写真を撮影し、X線画像をくまなくチェックする。マンモグラフィーを使えば、しこりになる前の小さな腫瘍も見つけられる。

ところで、一般に医師達が行っているマンモグラフィー画像診断を、AIにやらせればより正確にできると考えている人がいる。さらに、全国に無数に存在するマンモグラフィー画像を集めてビッグデータ化し、AIにマシンラーニングさせれば精度が飛躍的に高まるはずだ。カリフォルニア州サンフランシスコ校の、医師でありエンジニアのデクスター・ハドリー教授がその人だ。


画像データ共有を阻むハードル

マンモグラフィー画像のビッグデータ化とAIによるマシンラーニング、さらにはAIによる診断を阻む最大のハードルは個人情報の保護だ。特に個人の医療情報は厳重に管理する必要があり、外部への情報漏洩は絶対に許されない。そこでハドリー教授は、ブロックチェーン技術を使ってデータを分散して管理し、安全性を確保することを思いついた。

改めて言うまでもないが、ブロックチェーンとは仮想通貨の構築などに使われる技術で、「ブロック」と呼ばれる無数の「台帳」をチェーンでつないで分散処理する仕組みだ。ハッカーが侵入して画像などのデータを盗もうとする場合、そのブロックにリンクしたすべてのブロックをそれぞれハックする必要がある。ブロックチェーンが巨大化するほどハックするのは困難になる。


ハドリー教授らが立ち上げたマンモグラフィー画像共有サイト

ハドリー教授らが立ち上げたbreastwecan.orgは、まさにブロックチェーン技術を使ってセキュリティを確保しているマンモグラフィー画像共有サイトだ。

マンモグラフィー検査の受診経験がある女性は誰でも参加可能で、自分のマンモグラフィー画像を共有してもいいという人はbreastwecan.orgのサイトで申し込む。申し込みを受け付けるとbreastwecan.orgがその女性のマンモグラフィー画像を管理している医療機関へ連絡し、画像と医療データを取得する。取得されたデータは分散管理され、AIのマシンラーニングの対象となる。

マンモグラフィー画像を提供した人はbreastwecan.orgのサイトでいつでも自分のマンモグラフィー画像を閲覧でき、さらにAI診断による乳がん発症リスクなどの情報も受け取れる。

今後、breastwecan.orgでは健康な女性のマンモグラフィー画像と共に乳がん患者のマンモグラフィー画像も大量に集め、AIに学習させて診断精度を上げて行く予定だ。人間の医師の場合、マンモグラフィー画像の診断で、4回に1回は腫瘍を見逃すとされているが、breastwecan.orgでは、まずはAIに人間の医師の診断能力を超えさせることを目指す。

なお、breastwecan.orgで共有されているマンモグラフィー画像の点数は不明だが、ハドリー教授は、今年5月までに300万点から500万点のマンモグラフィー画像を集めたいとしている。


根底にあるのはハドリー教授の愛?

「20年間マンモグラフィー画像を集めてきましたが、私の経験上、マンモグラフィー画像が正しく使われないケースが多いのです」とハドリー教授。

ハドリー教授が言わんとしているのは、マンモグラフィー検査でがんではないのにがんの可能性があると診断される「フォールス・ポジティブ」と呼ばれる事象が多く起きていることだ。

マンモグラフィー検査を10年以上毎年受けているアメリカ人女性の半数以上が、フォールス・ポジティブの診断結果を受けた経験があるとされる。フォールス・ポジティブの診断結果を受けた女性は、追加の検査や処置などに余分な時間とお金をとられ、さらにはがんと診断された恐怖に襲われる。
フォールス・ポジティブの診断結果を受けたことによる女性の心理的負担は相当なものだ。ハドリー教授は、集めたマンモグラフィー画像をAIに学習させてがん発見の精度を高めるとともに、同時にフォールス・ポジティブを防ぐことも目指している。

ハドリー教授のプロジェクトは、今日までにブロックチェーン技術が広く一般で利用可能になったことで実現した。ブロックチェーン技術によってマンモグラフィー画像のセキュリティを確保した上で、マンモグラフィー画像を関係者間で共有するできるようになった。

さらに、女性が自分のマンモグラフィー画像を自分のものとして取り扱う事が可能になった。
タイミングが良かったと言えばそれまでだが、根底にはハドリー教授のがん患者を救いたいという強い想いが感じられる。ハドリー教授のように、愛に基づいた目的でブロックチェーン技術やAIが活用されれば、ポジティブな未来を夢見ることができる。この記事を書いていて、最後はそう思わされた。

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